第22話
キノコ事件から数日、カルタは神社から少し離れた森の中で、一人悩んでいた。
金棒のことである。
鬼の状態であればまるで木の枝でも振っているのかと思うほど軽々と扱える金棒だったが、人間の状態では持ち上げるだけで一苦労する。
いつでも鬼になれればよいが、どうやらこのスキルはそんなに都合よくコントロールできるものではないらしい。
なので、人間の状態でもなんとか扱えるように練習することにした。
とりあえず、まずはぶなんに野球のバッターのように構えてみた。
「痛い痛い……構えるだけで手がつるわ」
ビキビキと痛む手首をさすりながらカルタは金棒をいったん下におろした。
次に彼が思いついたのは、金棒を肩にかついだまま、移動し、敵に攻撃するときは金棒を背負い投げするように肩から直接相手に叩きつけるというものだった。
ちょうどゴブリンが近くにいたので、練習に付き合ってもらうことにした。
ゴブリンはしゃがみこんで、土をいじっている。アリでもいるのかもしれない。
「ゴブリンくん、あーそーぼー」
カルタが声をかけると、ゴブリンは立ち上がってキョロキョロとまわりを見渡し、カルタを発見した。
「ゲギャーウ!」
カルタにはわからない言葉でわめいたあと、ゴブリンは彼に向かって走り出した。
手にはこん棒を持っている。
――あの武器は自分で作ったのか? それともこの世界に出現した時点で持ってたのかな?
とりあえずカルタは動かずに待ち構えたまま、金棒を当てることが出来るか試すことにした。
「いち、にの、さんっ!」
「グギャブッ!」
カルタが肩から荷物を降ろすようにして叩きつけた金棒は、ゴブリンの頭をべこりとへこませた。
ゴブリンは地面に倒れこんだあともまだピクピクと動いている。
カルタはまた金棒を肩にかついで、お辞儀をするように再び金棒をゴブリンの頭に叩きつけた。
完全に機能を停止したゴブリンをみてカルタは、ふぅ、とため息をついた。
「ゴブリンはそこまで素早くないし、一匹だけならこれでも大丈夫そうだな」
上から叩きつける方法を確立した彼は次に横殴りにする方法を考えることにした。
「途中まで引きずって、バッティングスタイル?」
試しにやってみたものの、しっくりこない。
というか、金棒の重さに負けてへろへろの軌道になってしまう。これだとゴブリンすら殺せないかもしれない。
「やっぱ難しいか……いっそのこと投げつけるとか?」
何度か試行錯誤した結果思いついたのは『ハンマー投げ』だった。
重いものを投げるといえばハンマー投げである。
鬼の金棒よろしく、持ち手の一番下にドーナツのような穴がある。
そこに両手の指をかけて持ち、ジャイアントスイングのように回転する。
そして――
「アアアアァァァァ!!!!」
と、叫びながら手を離す。
「ゲホッ、ゴホッ……! はぁ……喉いてぇ。ハンマー投げといえば叫ばないとな、と思ったけど意味あんのか、これ? 俺は叫ばなくていいや」
金棒は勢いよく飛んでいったものの、狙った場所とは全然違う所に着弾した。
これを戦闘中に、動く敵に当てるのは現実的ではなかった。
しかし、この練習の中でまた新たな案が出てきた。
「別に投げなくてもいいのか! 回転して、そのまま敵にぶち当てれば結構威力あるかも……まぁタイミングよく当てられるかはおいといて、少なくとも投げるよりは確率高いだろ」
小一時間ほどあたりを歩き回り、やっとゴブリンを見つけた。二匹いる。
ゴブリンとの距離が10メートルくらいになるまで近づき、ゴブリンがカルタに気づいたあたりで、彼は金棒を持ったままぐるぐると回転し始めた。
「さぁ、来い!」
ゴブリンたちは最初、良い獲物を見つけたと言わんばかりに走りよってきたが、カルタの近くまで来るとピタリと止まった。
二匹とも、目の前で回転する謎の生き物に困惑している様子だ。
金棒の回転にあわせながら顔を動かしているゴブリンたちは、なんとか攻撃するタイミングを見計ろうとしているが、金棒が5周しても10周しても、それを見送り続けた。
「おい……おい……! さっさと! 来いよ! 大縄跳びじゃ、ねぇんだぞ!」
最終的に疲れと目眩で足をもつれさせたカルタは地面に倒れこんだ。
ここぞとばかりにゴブリンたちは彼に攻撃を仕掛けた。
「痛っ! いてて、おい、反則だぞ!」
「ゲッギャッギャッ」
結局、回転攻撃は使わず、ぐだぐだながらも二匹を倒したカルタは「要練習だな」とぼやきながら神社へ戻っていった。
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