第1話 ゲームの世界

 通学する女の子が好きです。

 小さい子を見たら、安心よねと久しぶりに家に来た友達のあおいに言ったらドン引きされた。顔は赤くなり、口調は早かったらしい。そんなに熱心になれる物があって良かったねと言われた。


「カナデちゃん、じゃあね」

 外から声が聞こえるのは十六時くらい。高学年なのかなそれとも学童保育帰りの子供。


 妄想恋愛スキルでいつもカナデちゃんと触れあっている。暗い室内に脱ぎ散らかした下着。洗濯は三日に一回。


 ワンルームで角部屋。洗濯の動機も、いつかカナデちゃんがお部屋に来た時の為にやっていることだ。それにしてはさほど熱意はない。


 もうそろそろ洗濯しないといけないな。カナデちゃん、いつ来てくれるかな。こっちから誘いこんだら犯罪だしな。


 つけっぱなしのパソコンのアラームが鳴った。うるさいな、こっちは洗濯で忙しいのよ。


 洗濯機に詰め込むと上手く洗えないので、少しずつ回数を分ける。パソコンからアラームが鳴ったのはパーティーメンバーからの要求だろう。マイクに電源をいれて、いつものボイチェンを使う。


「緑さん、遅いですよ」


「小清水と違って、私は勉強の合間を縫ってやってんの」

 大嘘だ。お父さんのお小遣いとお母さんの伝手で住んでいるアパート。

 

 朝、小学校に登校するカナデちゃんを部屋の中から見守って、届かない手を振って、昼間は寝て夕方に起きて手を振って、飯食って寝る。


 このウィンファンという放置ゲームは基本的に操作は必要は無いのだが、団体戦やランク戦でパーティーを組むことがあり、偶然フレンドだった小清水に誘われて、上位戦を戦っている。


「こっちいくつでしたっけ」


「今、十万ランク」

 十万ランクは無課金では半年かかり、運が良ければ三か月で届く。

 小清水が親に隠れてやっているので、課金は出来ず仕方ないと親のお金から課金している私が小清水に物資を送っている。


「いつもすみません」


「いいよ」

 子供の声を使ったボイチェンなので、こちらが大人とは認識されていない。向こうはボイチェンを使っていないので、かなり幼いのが分かる。

 性別を聞いたことないので、分からないが男の子でもいそうな声だ。


「いつか緑さんの顔見てみたいです」


「いつか見られるといいわよね。じゃ、行くわよ。相手は」

 他のメンバーも二人いるのだが、マイクのスイッチは入っていないので話す気が無いのかコンピューターなのか。そのどちらかだろう。


「出ました。総戦闘力十二万です」

 クソ、総戦闘力二万上か。

 相手のキャラクターレベルは四人で戦闘力十二万。こちらは四人で十万だ。戦略次第では勝てる。

 

 この十万から十五万は課金か無課金かギリギリのラインで私達みたいにチームの一人が金を持っていない限り、に立っていることすら奇跡に近い。


 この相手を倒さないと十三万はあと半年かかる。この子がもし子供ならゲームの世界にしばるのはきつかろう。


 戦闘が始まった。こっちのキャラクターが死んだ時に三十秒以内にキャラクターの入れ替えをしないといけなくて、ゲームに張り付いていないといけない。

 それが億劫な上にチームワークが出来ない人はこのゲームから脱落していく。


「もうあと十ダメージで勝てます」


「まだだよ。相手光ってる」


「でもここまで来て反撃は」

 来た。ダメだ、こんなのバグ過ぎる。


「そんなメサイヤの教典なんて」

 メサイヤの教典は限られたキャラクターにしか装備出来なくて、そのキャラクターも入手が難しい。

 聞いたことあるのは相手が三人以上生き残っていて、自分が残りが十ポイントの場合、相手のライフポイントが上位二人を抹殺し、メサイヤの教典をもつキャラクターを全回復。最悪だと一対一で戦わないといけなくなる。


 残っているのは私だけだ。課金は私一人、残っているキャラクターはあと二体。でもメサイヤの教典を持つ相手との相性は最悪だ。


「まだです。まだライフポイントは残ってます。緑さんのライフポイントではまだ」

 相手のライフポイントが五千万。こっちは課金アイテムで強化したヒットポイント五十万のキャラクターだ。このキャラクターが好きでもうレベルが上がらないのにここまでずっと使ってきた。そしてメサイヤの教典を持つキャラクターに蹂躙ころされた

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