第34話 頼子の愛
予感ではなく、はっきりとした事実だ。それでも受け入れがたい真実。
「あんたに好きな人がいるなんて、驚きね」
「びっくりした時は右耳の後ろをさする。次はその手を右ひざに押し付ける。私は緑さん好きだよ。殺しちゃいたいくらい好き」
殺すという言葉がリアルに聞こえる女である。実際にこの女の手にかかって亡くなった人間がいるという噂も聞いたことがあった。
「殺されるのは嫌よ。そんなサイコな告白は受け入れがたいわ」
「私は緑さんに興味があるの。緑さんは私に興味ある?」
「無い」
これが最適解だ。昔、関わった保健室の先生は興味があるかないかを問われて興味がないとは言わなかっただろう。
女子実習生も用務員室に来ていた子だった。福島先生も体育科の先生も男性だ。
外見は整い、色気のただよう女にいいようにされて「先生は私に興味ありますか」と、聞かれて首を縦に振ると三日。三日あれば消すことの出来る女だ。
それをいい意味で裏切るしかない。なので、最適解はいいえである。
「じゃ、緑さんに好きになってもらわなくちゃ。私、人間だから人質なんて取らないよ。よくあるじゃん、あなたが好きになってくれなきゃ、私はこの女と死んでやるってやつ」
「当然よ。ほかの人間に対してももう少し興味が薄れると嬉しいわね」
「これでも抑えている方だよ。生徒に声を掛けずに淡々としているだけだよ。教室で無愛想だって言われても全然何もしないよ。だって高校生のガキなんて好きじゃないから、でも」
「でも?」
「最近、気になる子がいてね。曽根君って言うんだけど知ってる?」
「私は知らない」
「なんだか好きなんだ。あのマジョリティーから疎外された感じ、でも自分を保つ為に必死で本を読んでいる。ここに来て初めての攻略は曽根君かな」
しばらくは曽根君に気持ちが傾くし、私は安心していた。そもそも興味がどうとかで人が消えるという現象は頼子の中では息を吸って吐くと同じく日常生活である。
しかし、攻略なら別だ。今までのは全て攻略ではなく、いつものたまむれだったが、頼子の唯一の弱点は攻略が上手くいかないことにある。
例えるなら好きな男の子に好きになってもらえない奥手の女の子になってしまう。
五日経っても十日経っても、私は頼子の曽根君話に付き合われている。今日はこっちを五秒見てくれた。手を振ったら顔を背けられた。試しに興味があるか聞いたら全然って言われた。
顔は紅潮し、口調は早く。幸せそうな彼女を見て、そんなに熱心になれることがあって良かったねと思った。既視感がするな、まぁいいか。そうしているうちに残り三日になった。
頼子の母とは密に連絡を取っている。この三週間で消えたのは教員五名、実習生二人だ。全て頼子がちゃんと処理したお陰で原因がどこにあったのかが分からないまま、みんな病気でこの高校を去った。
終了三日前になっても頼子は曽根君を落とせないでいた。
「緑さん、何がダメだと思う?」
「私を好きになって同然という厚かましさ」
「私、厚かましくないよ」
最終日、挨拶を終え大学へ戻る実習生の中に頼子はいなかった。
最後は図書室で曽根君と話をするらしい。退勤時間になり、学校の見回りをした。図書室を通った時に一人の男の子が出てきた。
ぺこりと礼をして察していた。しばらくして頼子が出てきた。
「なんでこういう時だけ、ちゃんと引っかからないのかな」
「それは知らないけど、大人が高校生に手を出すのはアウトだと思うよ」
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