第4話 名誉の負傷だ
明確に待っていた。私が住んでいる家の前を小清水が通ることを同時に通ってくれるなと思っていたことも確かだ。
私はカナデちゃんを好ましく思っていた。今だって変わらない、ずっと可愛い女の子で家に連れ込みたいといくら思っただろうか。
「カエデ行くよ。置いて行くよ」
カナデちゃんに先導されるまま両親の後ろをとぼとぼ歩く小さくて薄い下を向いた女の子。
自分を俺と言って、自宅を警備している。
姉ちゃんが憎い、全部持って行くとメッセで書いた女の子。
「お姉さん、おはようございます」
ちゃんと止まって礼をするカナデちゃんの後ろでご両親は目礼をした。
「いつも挨拶してくれるの。優しいお姉ちゃんだよ」
「娘がいつもありがとうございます。ほらカエデも挨拶しなさい」
小さい声でどうもです。と、言った。それと小さく息の様な声で「だれかたすけて」と、つぶやいた気がした。
私はその瞬間、何もかもを手放す覚悟を一瞬で行った。
小さなカエデをしっかり抱きしめた。
「え、あの」
「私、緑っていうの。ウィンファンってゲームでメサイヤの教典を外した緑。課金している」
両親は私とカエデの間に入った。
「なんですか。いきなり抱きしめて、警察を呼びますよ」
「違うの。ゲームで知り合って」
「だからゲームは止めろって言っただろ。どうせあなたも働いてはいないんでしょ」
「俺の友達をバカにするな」
隠し持ったカッターナイフ。それを父親に振りかざした。私の手の方が早かった。
「ダメだよ」
名誉の負傷だな。
「殺したいと思うのは頭の中で実際にしちゃダメって書いたでしょ」
「でも」
「私たちは戦っていて、それは正義なんでしょ? だったら暴力はダメだよ。胸を張って戦えなくなる。あと誇っていい。私はあなたの姉貴と関わった。姉貴から取り戻した初めての女が私」
カッコつけないで刺さらなかったら良かったのに、私は何をしているのだろうか。
うわ、救急車とか言われているよ。やめてよ、あの子が外に出るチャンスが遠のくじゃない。誤って私を刺したからって重罪じゃなくて事故なのに、ここで立ち上がって病院に。
「緑、ごめん。私本当に」
ちゃんと目を開いて言わないといけない、間違いは許されない。
「あなたは悪くないことは無いけど、あなたの未来を守った名誉の負傷だよ。私たちはずっと戦うの。カナデにいくら奪われてもちゃんと二本の足で立って、取り返すの」
「嫌だ。緑、私緑の手」
そうか右手は汚れていない。
「大丈夫。私たちはまだ負けていない」
大したことじゃないのに救急車を呼ばれた。洗浄、消毒と縫合で全ては済んだ。
ただ間の悪いことに大家に見られていて、大家が実家に通報。あれやこれやでアパートは引き払い、カナデちゃんやカエデと会うことなく町を離れた。
人を刺す子供がいるところで生活をさせられない。実家に帰るともう働く能力は無いと判断されてアパートを出されたのが二十二歳、親の伝手でてきとうな男とお見合い結婚をしたのは二年後の二十四歳、相手の不貞で離婚が四年後の二十八歳、現在三十歳バツイチ子なし。
両親は養えないので頑張って生きろと言われた。
慰謝料を貰えたので、何とか住の確保は出来そうだけど、仕事はどうすっかな。三十歳の女を雇う仕事場あるかな。職歴無しならギリギリだ。
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