第23話 一緒のベッド

「にゃあ。ふへへ」

 夜一時を回ったところです。児玉先生鈴香が可愛い。


「だーいちゅき」

 夜二時を回ったところです。児玉先生が可愛い。


「緑ちゃんっへへ」

 寝れたもんじゃない。


 0時に寝る用意をした。私は、下で寝ると言ったが予想通り、児玉先生いや鈴香は私を床で寝させられないと言った。

 二人の議論は平行線を極めたが、最終的に鈴香の睡魔が限界を迎えた。


「じゃ、緑。一緒のお布団で寝よ」

 と、言ったのが二時間前の話だ。この女はさっきから私のことをどうしたいのだろうか。私には女をどうにかしようという知識は豊富に取り揃えているが、実戦経験は無い。


 従って本能したごころにブレーキをかけなくても抱きしめるが関の山である。この線の細い少し背の高い女を抱きしめたらどんなに柔らかいだろうか。


 さっきからいい匂いがしている。今日、一緒のシャンプーを使ったから、同じ匂い。これは寝るなと言われて寝るわけがない。

 でもそうだな、寝返りうちたいな。


 動けない。トイレにも行きたい。足でホールドされているのだ。確かに足を絡めて、顔のすぐ近くでデレデレになっている鈴香は貴重だ。あの高校の男性教員はうらやましいだろう。


「ちょっと鈴香。私、トイレ」


「行かないでよー」

 薄く開いた目と甘い声。くらくらする。


「ちょっとだけだから、ね」


「私も行く」

 スースーと寝息を立て始めた。睡魔には勝てないだって人間だから、尿意には勝てない生理的な問題だから。


 ベッドに帰ると寝返りを打ったのだろう私のスペースは壁側しかなかった。このままだと鈴香が落ちて怪我をするかもしれない。一日くらい寝ないでもいいだろう。

 クッション役に立候補しようと鈴香のいる方に腰かけた。それで鈴香は前夜に自分がしたことを覚えている方なのかどうなのか。


 鈴香の名誉を思えば忘れてくれる方がいい。こんなこと覚えていたら可哀想だ。目の前で吐息を感じ、甘い言葉をかけられることが無いというのはドキドキせずに済み、私は眠りに落ちた。


「緑さん、緑さん」

 目を覚ますと顔の上に鈴香の顔があった。


「ごめんなさい、私」

 何していたっけ、さっきまでベッドで寝ていたのにおかしいな。落ちたのか。


「あれ、おはようございます」


「私ったら」

 窓の外を見ると少し暗い。


「どしたの?」


「私がベッドから落ちてクッションに」

 思い出した。昨晩、トイレに行って寝る場所が無かったんだ。


「気にしなくていいのに、まだ眠いでしょ」


「緑こそベッドで寝てよ。体痛いでしょ。一緒に寝よ」


「いいよ。目が覚めたし」

 嘘だ。同時にこれ以上あのベッドで甘い声を出されたら我慢出来る自信が無い。押し倒してどうするかの知識は葵の持っている同人誌で確認済みだが、BLではいささか知識に偏りがある。


 男同士にはいれる為の棒があり、二つしかない片方の穴にゴーするという生殖行動があるが、残念ながら女には穴は三つあってもゴーする棒は無い。この手の知識は奏が詳しいだろう。


 奏に聞くことは無いだろうな。聞いて安全に戻る保証はどこにもない。処女では無いが、高校生に飼い猫にされたくない。

 三十歳バツイチ女、飼い主は勤務先の高校の生徒。もし鈴香が知識を持っていたとして、鈴香に抱かれるのは奏の猫になるくらいなら鈴香がいい。


「お姉ちゃん、行かないで」

 お姉ちゃん子なのだろう。可愛いな。


「そんなとこダメぇ」

 今のはお姉ちゃんに対してか、それとも男に対してか。それを聞こうと耳を澄ましたが、夜明けまでの二時間、鈴香が寝言を漏らすことは無かった。

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