第22話 児玉先生のおうち

 駅まで迎えに来て、買い出しをしてくれた。

「散らかっていますがどうぞ」

 ワンルームの整頓された部屋だった。

「ベッドの上にでも座っててください」


 ベッドの上、この上に児玉先生は寝ている。うわ、いい匂いしそう。

 鼻腔に広がるかすかなスメルに少し興奮した。ここで疲れたと言って寝転がってしまったらどう思われるだろうか。


 ゲーム会は次回に持ち越しで、次回もある。いやいや、今日で終わらせてこれから安心して関係を築いてくれる方がいいだろう。さて、今日はどうやってお風呂に持ち込むことが出来るかな。


「お茶いらないですか?」

 テーブルに置かれたお茶が少し汗をかいていた。


「いえいえいただきますよ」

 大人の余裕よ緑。変態親父は封印しないとね。


「ということですずらんの風のご教授お願い致します。お姉ちゃん」

 目があった。


「いや、その。忘れてください」

 感動した。間違いでもお姉ちゃんって呼んでもらっちゃった。


「いえ、全く問題ありません」


「掛川さん?」


「私は今日から児玉先生のお姉ちゃんです。不埒な男性教員から守護します」


「変な先生なんていませんから」

 それがいるのよ。


 食堂を出たり入ったりする教員。

 画家のうんちくを話す教員。

 荷物を持とうとする教員。


 私が守るといってべったりな、これは善良な教員だ。けして私は外道では無い。ただ守ってあげたいだけだ。


「児玉先生可愛いから」


「全然可愛くないです。コンプレックスだらけです」


「えー、私は可愛いと思うけどな」


「そんな恥ずかしいです」


「さっそく、しますか」

 あれ、何をするんだっけ。なんでこの家に私はいるのだろうか。

 児玉先生の部屋に来た。お茶を出してもらった。ベッドに腰かけている。これはもう天に召されてしまってもいいのではないか。


「ではさっそくすずらんの風を。パソコン出しますね」

 小さい画面のパソコンだったらいいな。顔と顔がくっついて、いいですな。それは非常に趣深くて、自然なふれあい。


 ノートパソコンの中では大きい部類だった。


「ではよろしくお願いします」

 結構やりこんでいるらしく、夏月なつきの好感度は70%まで上がっていた。デートも三回重ねている。この時点で夏月ルートは消えている。


「もうこれはダメです。この前のセーブは?」


「セーブしようねって、誠くんが言ったので」

 誠くんはセーブを的確に勧めてくれる有能キャラなので、従って正解だ。


 夏月は好感度が70まで上がったら、二回デートして、次に遥を選び、つかさに涙目で迫る琴葉を拒否、琴葉との仲を疑った夏月は…。


 私はそういう難しい選択肢を乗り越えて、五秒で決めなくてはならない選択肢もあり、すぐに消える掲示板の情報を書き留めた私の様なゲーマーがやっとのことでクリアした時は二年という月日が経っていた。なんとか夏月の交換度80%までになったところで、誠くんがセーブをすすめた。


「疲れたね。今日はこの辺で止めておこう」


「そうですね。今日は泊っていってください」


「分かりました。そうしますか」

 ん? 今、何か大事なことを見逃した気がする。

「泊ってもいいんですか?」


「ダメ、ですか?」

 ギャルゲーをしたあとにギャルゲーみたいな選択肢があってもいいのだろうか。どこでお泊りイベントのルートを選んだのだろう。

 私が女で良かった。男ならこの城に入る事すら。


「ジャガイモがあるのでカレーにしましょう。あと、私の事は鈴香って呼んでください」


「え、それは」


「だから私は緑って呼びますから」

 親密度アップのイベントはどこで回収したのだろうか。

 こういうよわよわな女に押されるのも非常に悪くないな。児玉先生いや鈴香は顔を赤らめている。いいもの見れたな。

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