第36話 選択
「先生方の中には体を痛めておられる方もいて、短いほうきではなかなか大変で」
「それは用務員の仕事だからやらなくていいよ」
校長先生に直訴した。雑用は用務員の本分です。私にやらせください。
そのおかげで私の仕事量は増え、休憩が短くなった。廊下は雨の日の放課後に磨けばいい。草むしりはきつかった。
これをおじいちゃん先生がやるとなれば、大変苦労しただろう。
学校の周りの清掃もてきぱきとして、誤解を解く為に勤しむ。元はと言えば、私の従姉妹が引き起こした事件だ。
責任を感じている。これくらいでいいなら力を尽くそう。十二月になる頃には全ての仕事を終えれば十八時に終わるようになっていた。
休憩は鈴香と被らないが、放課後に会いに行ける。
「児玉先生」
「あ、みど。掛川さんお疲れ様です」
「その聞きたいことがあって」
「なんですか?」
「曽根くんって生徒知ってる?」
「曽根さんですか。ちょうどデッサンやってます」
あの黒い髪の生徒は曽根さんだった。女の子だ。
ではなぜ小清水家センサーに引っかからなかったのだろうか。
三年生だそうだ。
「曽根さん。掛川さんが話があるって」
鉛筆を置いて振り向いた。
「なんですか。ここで聞きます」
「神原先生の事で」
「それ前も聞かれたと思うんですけど、よくわからないので」
「私も気に入られてしまって」
「男の子だと思った。やきもちを焼かせたい相手がいて、あなたの事は気になるけど、あの人は女の子に目がいってもびくともしないの。気に入った人はいつの間にか壊れちゃう。あなたが男の子だったら良かったのにね。これでいいですか?」
そういって鉛筆を取った。私は鈴香を廊下へ引っ張り出した。理由を知りたいのだ。
「淡々と物事をこなす頭のいい子です。教室内派閥には無関心で最低限しないといけないことはするけど、それ以上の事には興味がないと言ったところです」
奏はたどり着くかもしれないが、たとえたどり着いたとしても冷たい態度を曽根さんは取るだろう。楓はたどり着いてもそうなる。同じ結果になるに違いない。
では、頼子のなぜセンサーに引っ掛かったのか。そんなことを考える必要はどこにも無いのだ。
もう終わった話だ。頼子に情熱が無い限り、ここに頼子は戻ってこない。情熱が無ければという話だ。
曽根さんは三年生で卒業してしまって、例え新卒で戻ってきてもその残り香も感じず、寂寞の思いを覚えつつ、ここかまたはこことは違う環境で人間関係を息をするように壊していくのだ。
「教育実習生って、事前に面談とか無いのかな。鈴香の時はどうだった?」
「無かったですよ。出身校で知っている先生もいましたし」
出身校。そうか、アレは出身校から外されたのか。そのツケがこっちに回ってきたのは勘弁して欲しい。
良かった。これで一先ず安心だ。
「何か心配事でも?」
「何も終わったことだし」
「教育実習生と言えば、神原先生。すごく熱心だったみたいで」
それはそうだろう。社会的に落とす人間の調査はするだろう。本気で落としたい人間は探す。待てよ。
「児玉先生!」
「は、はい」
「先生は神原先生と接触点は?」
「いや、科目が違ったので」
「もしかして曽根さんって音楽選択ですか?」
「そうなんですよ。美術部なのに曽根さん美術は極めたとか言ってさ」
「その熱心って」
「音楽選択の生徒さんは特に名前や好きな物とか」
神原頼子は音楽教員だ。曽根さんを頼子は音楽室で捉えた。
用務員室に戻るとクリアファイルに入れられた紙が落ちていた。そういえば鍵かけて無かったな。私は紙を見ずにゴミ箱に捨てた。
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