第35話 曽根君とは何者

 最近は少し肌寒い。頼子は教員採用試験の勉強をしながら街に出て、人の人生を狂わせているらしい。


「緑ちゃんから何か言ってよ。あの子、緑ちゃんの言うことなら聞きそうだし」


「嫌ですよ。それに私は頼子に興味が無いので」

 学校には平和が訪れた。抜けた先生の代わりの先生の手配も出来ないが、生活は回っている。鈴香は担任になったそうだ。

 

 食堂では会えないかもしれない。


 頼子、さすがに飛ばし過ぎだ。お陰で噂が立ったらしい。あの高校には悪魔がいると。

 悪魔は去ったのだが、不審な転校もあった。いじめや恐喝、悪いイメージを払拭するために校長は必死だそうだ。教員は早朝清掃に勤しんでいるという。



「最近、先生が朝に掃除してるよな」


「この学校美化意識あったっけ」

 けらけらと笑う生徒の後ろで教員が汗を拭っている。


 最も掃除のあとに出勤するので生徒達と登校は同じだ。生徒達の中に眼鏡をかけてぼさぼさ頭の曽根君がいた。

 私は彼に興味があった。あの神原頼子に接近されても社会的に生還した珍しい人物いきものだ。


「あ、あの。曽根く」


「なんですか?」


 声は低くて、髪が顔を隠している。


「その頼子がずいぶん世話になったみたいで」


「頼子?」


「あの神原頼子」


「あぁ、あの人。親戚?」


「一応、従姉妹。いやぁ、アレに関わって社会的に死なないなんて貴重だと思って」


「話はそれだけですか」


「は、はい」


「課題あるんで失礼します」

 後ろに去っていく曽根君。普通はそうか。


「曽根君? 誰」

 安寧が訪れた食堂でチキン南蛮定食を食べていると両脇にアホ娘にサンドイッチされた。

 男子よ、うらやましいか。代わってやるぞ、この真ん中は極めてみっちりサンドだと思っているだろう。違うのだよ。お互いがケツに力を入れて互いを椅子から押し出そうとしているのさ。


 そう私のお尻には今両方向から圧力がかかっている。それをしながら話をしないといけない。そう恨めしい顔で見るな、わかっている。代わってやるからここに来い。


「あの頼子にストー」

 そうかみんなは神原先生と呼んでいたから、頼子と言っても通じないのか。

 さっきの曽根君もそうだった。頼子と呼んでいたのはこの高校で私だけだった。この違いが明暗を分けた一つの材料かもしれない。


「神原先生に好かれていた」


「神原先生って誰かといたっけ」

 奏は左サイドからサンドイッチを手に押し出そうとしている。


「なんだか一匹狼みたいな感じだったよね。授業は面白かったらしいよ」

 楓は右サイドからクリームパンを手に押し出そうとしている。


 つまりどっちに転んでも液体が私につく。


 バッと立ち上がった。そして静かに座った。両サイドからの攻撃が止んだ。


「曽根君に話を聞きたい」


「だってさ、奏。私は女の子には明るいけど、男の子はちょっと」


「私だって女の子ばかりよ」

 ため息をついて伸びをしたところで予鈴が鳴った。私はすぐに用務員室に戻らなかった。


 この時間にかけている。小清水家センサーに引っかからない子だから、おそらく男の子。

 選択の授業は舞踊か音楽か美術、美術選択をしていれば曽根君にたどりつく。たどり着いて何がしたいのだろう。

 これからやってくる頼子との戦いの知識を蓄えるのか。向こうからしたら益が無い、何か持たないといけないだろうな。

 マイスイートハニー鈴香が食堂に入ってきた。


「鈴香。曽根って名前の子知らない」

 もうすぐ冬がやってくるのに汗をかいている。察した。先生は大変だな、草むしり。


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