第8話 爆弾
学校の先生は親切だった。草刈機で除草してください。トイレの配管が壊れたので業者を呼んでください。教室で公序良俗を乱している生徒を見つけたら注意してください。
公序良俗はどんどん乱れろ。その方が健全だ。
生徒が授業を受けている間に学校を歩き回った。立て付けの悪い体育倉庫の扉に油を刺し、庭の鯉にエサをやった。電器の交換や掃除はそのうち慣れてきた。
唯一、困るのはこれだ。
「カナデなんて、あんなにブーブー言っていたくせに何でここに通っているの?」
「妹が襲われないかと心配してるの。監視よ、感謝しなさい」
「緑がそんなことするはずないじゃん」
「どうかしら、昼間から何もしないでカーテンの隙間から私を覗いていた女よ」
やめてくれ、王子様を見ようと、わく男子生徒と女子生徒。女王様の厳しい視線の取り巻き。
「二人とも教室に帰りなさい」
「えー、私は緑と過ごすの! だって、最後に会ったの小三じゃん」
小三だったのか。それにしてはちゃんと話していたよな。テレビの影響か、最近の子はすごいな。私なんて小学生の頃は鼻くそ食っていたぞ。
「年齢を知らなかったから、まさか小三だなんて」
カナデの目の温度が下がった。
「でも小三でもお姉さんは手を出したでしょ?」
「そんな人でなしではない」
当時にもし仲良くなっていたら、手は出したかもしれない。
予鈴が鳴った。
「帰りなさい」
頭の上を手がなぜつけた。カエデの手だと分かったのは目の前でカエデが押さえた手をさすりながら小さな声で「また来るね」と、少し笑ったからだ。
なるほどこれはモテるわ。
「高校生でも犯罪だからね。お姉さん」
肩をポンポンと叩き、カナデは振り返えった。
「あの子はきへんの楓。私は演奏の奏だから、ちゃんと覚えていてね。ロリコンさん」
「それは本人から聞きたかったな」
「聞いてみてもう一回初めてみたいに聞けばいいじゃない。あの子アホだから嬉しくなるわよ」
「参ったな」
「私、授業あるからねお姉さん」
意地でも緑と呼ばないみたいだ。さて、廊下でも磨くか。
地上五階建ての建物が三つの学校だ。これで公立高校らしい。新しい校舎ということはここの自治体は儲かっているようだ。大きい企業が多いから法人税だろう。
先代、先先代が残したメモには三号館地下の用具室には近寄らないことと書いてあった。学校の怪談。こんなきれいな校舎にもあるのか。
行くことも無いし掃除だったら神様も許してくれるだろう。
お昼ご飯も食べて少し眠い。少し涼しくてちょうどいい。休憩は一時間、仕事が無ければゲームを持ち込んでしてても怒られないとある。
戻るのは大体放課後だ。冷暖房完備ながら夏は汗をかくだろうな。シャワーは貸してもらえるのかしら。
用務員室の扉が突然開いた。脱ぎかけていた手を慌てて止めた。
「なんでいなかったの?」
真っ赤な顔の奏は開けた戸を叩いて不機嫌そうに言った。
「その仕事なので」
「ボランティアじゃないの?」
こんな仕事、ボランティアでやるもんか。
「給料もらってます」
「なら早く言ってよ」
「なぜ言わないと?」
「楓が心配だからよ」
なんだかんだ妹が心配なのか。
「ちなみに何が」
「楓が自分の脱いだユニフォーム置いてきたらしいから、それで何かをしてないか心配してきたの」
天然だとしてもとんでもない爆弾だ。
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