第7話 騒動のワケとその言われ

 ベタベタついてくるので、仕事の邪魔と言ったら寂しそうに去って行く。



 毎日である。



「久しぶりだもん。緑を私の物にしないと取られちゃう」

 三十路前を誰が取るものか。


「あのね、あのね。私、今度の連休の三日に誕生日なんだ! ウチに来てよ」

 放課後、用務員室の前で視線を合わせようとカエデは中腰になっていた。私は目を逸らした。


 カナデが気にしているなら、ご両親はもっと気にするだろう。

 傷に触るようなことを私はしたくないし、常識として昔出会った大人であろうと、いきなり家に行くことは出来ない。


「またね」


「何で余裕あるの? 私にとってあなたはヒーローなんだよ」

 かぐわしい百合の香りがしてきた。あの頃と違って、もういい大人だ。高校生と恋愛だなんて無い。どんなに距離を詰めようとしたってこちらは何も興味ない。


 この子も男の子とくっつくなり、女の子とくっつくなり、そんな青春せかいを歩んでくれ。

 勤務先なので強くは言えないが放っておいて欲しい。


「カエデ、何してるの?」


「カナデ。覚えている? 緑だよ、用務員として帰ってきてくれたの」

 たくさんの女の子を引き連れて来た。あの頃より少し身長が伸びた可愛い女の子。


「前に来た時はお留守みたいだったけど」


「前にも来たの? ほら、やっぱりカナデも気にしていたんだ。言ったでしょ? 今度お家おいでよ」


「そこのロリコン女が私たちに毒牙せいよくを向けないか心配になったのよ」


「そんなことないよね。だって、緑は高校生の私たちにそんな目を向けないもん」


「子供相手ならどうするかしら、掛川さん知っているわよ。いつも私をカーテンの隙間から覗いていたことを、気持ち悪くて怖かった」


 ゲラゲラ笑うカナデちゃん。


「そんな事ないよね。ただ、子供が可愛いと思っていただけだよね」


「黙っちゃった。ロリコンって認めたのね。怖いなー、また襲われちゃうなー」

 その通りだ。あの時、私は純粋に性的な対象としてカナデちゃんを見ていた。

 勇気を出して外に出ても何をしても結局はこの子達で性欲で満たしていたのだから、軽蔑されても仕方がない。


「でも、私の事を緑は」


「そうよね。引きこもりのカエデは露出が少ないから、変な目で見られることも無いか。でも声で幼なさは分かるもん。どうせオカズにされていたわよ」


 ばちんと音がした。座り込んだカナデと取り巻きに服を掴まれるカエデ。怒号が飛び交い抵抗する様に何も出来ずに誰かが呼んだ教師がかけてきた。


「お怪我は?」


「どこも」


「うちの生徒が」

 覚悟した。


「喧嘩をした仲裁をしてくださりありがとうございました」

 ということにしてもらおう。


 女子高校生のパンチは案外痛い。


「湿布はりますよ」

 保健室で介抱される三十路前の女。あの騒動の時に誰かが放ったパンチが顔に当たって負傷。

 止めようとしたわけじゃない、流れに逆らえずちょうど先生が来た時に集団の真ん中にいただけ、みんなしっぽり指導されているだろうな。


 気の毒に。


「掛川さん、本当にすみません。よく言って聞かせるので」


「いえいえ元はと言えば」


「元?」

 言えない、言えるはずない。声が出かけて瞬時に止まった。私がロリコンだったからなんて言っちゃダメだ。









     

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