第6話 カエデとの再会
何となく待っていないといけない気がした。体育館の外でジャージ。私をこの地域で緑だと分かるのは葵と小清水家だけである。
葵の妹? 聞いた事が無いけどあり得ない話では無い。葵の妹ならありえる。年齢もそれくらいだったはずだ。
私は気持ちを軽くした。葵の妹と何を話すのか。
ゲームで味方のフリして殺したことを責められるのかな。
それとも小粒ミカンと言ってシークワーサー食わせたことかな。
それとも米の研ぎ汁をカルピスだと言って飲ませたことかな。
うん、殺されても文句言えない。
でも、若気の至り。どんな処刑をされるのかな。
今までだと一時間M字開脚でポテチをこぼさずに食べて、落としたら十分追加の刑が一番キツかったな。
「緑、緑?」
葵の妹って、私のことをこのクズとしか言わなかったような。
「はい」
長身の生徒が立っていた。見上げないと顔が見えない。その人は中腰になってくれた。
「私のこと覚えてない?」
「ごめんなさい。心当たりが」
突然、左手を掴まれた。
「左手、あとになってる。ごめんね」
そうかこの子は小清水家の子だ。
あの日、この子はお父さんを刺そうとして私は左手に刺させた。
泣くな。この傷があったからカエデはここまで生きてきた。きっと捕まることも無かっただろう。
「生きていたのね」
「心の中で思うだけにしたよ。でも当時の事をみんな引きずって、カナデが進学するこの高校に半ば強制的に入れられちゃった」
それでヒーローなのだから、大した物だ。でもカナデはどう思うだろう。
「カナデと会う?」
「いや、いいよ。カナデちゃんそんな絡み無かったし」
部屋に来ないかと想像して、カーテンから覗いていた女の子がカナデだ。
どんな顔して会えばいいのか分からない。
「それもそうか。今日、お家行ってもいい?」
「お家はちょっと」
「再会記念パーティーしたいな。ダメ?」
そうだよな、学校のヒーローと用務員じゃ、関係性分からないもんな。
ここでカエデのお姉ちゃんを視姦していたオンナですという事実を言ったらポリスメンだ。
「お家はダメ。事案になるから」
「高校生だよ。問題無いよ。心配ならお父さんに連絡するよ」
「部屋散らかってるし、今はちょっと」
「いいよ、気にしないよ」
月の物で汚した下着まだ洗剤につけたままなんだよな。
「今日はダメ」
「じゃ、またね」
未来の約束をさせられてしまった。
「カナデが気にしていたよ」
気にもするだろう。目の前で妹に手を切り刻ませた女だ。どういう意味でも気にするのは真っ当だ。
「そのうちね」
「いつまでいるの?」
「当分は」
「じゃ、今日はウチにおいでよ。お母さんに連絡するね」
「今日はダメ。まだこっちに来て間もないし、朝下ごしらえをしたから、今日食べないと」
「ダメ?」
さっきのイケメンクールキャラはどうした。
「明日、また体育館に来てね。緑が毎日応援してくれるなら、練習試合も頑張るから」
王子目当てで集まった生徒の皆さんに下手な言い訳をするはめになった。
「あ、その。皆さん、私はただの古い繋がりでして、皆さんが思うような不純な事をしていないのでご安心を」
そう言ったが、気配は既に無かった。私はとんでもないものを手なづけたのかもしれない。
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