第16話 感想戦

「食べて欲しいなら、私みたいなロリコン女に女子高校生からいただいたお菓子を食べきれずに他の女に食べさせる哀れで情けない人未満でごめんなさいって、言ってね。早く言ってよ。私暇じゃないの」


 葵の妹のすごいところはこれで運送業なところだ。絶対に職場でも女王様やっているよ。


「私みたいな」


「次に棒読みしたら、M字開脚や」

 そしてよくM字開脚をさせる性癖を持つ。中学の時は可愛い子だったのに、どこから歪んでしまったのか。


「私、ロリコンじゃないよ」


「カップケーキ持って、M字開脚ね。ちゃんと言いなさい」


「ただいま、カップケーキだっけ、女子高生の手作りだよ。絶対美味しい。緑来てたの? なんで正座」


「M字開脚が屈辱過ぎて」


「またアンタ緑いじめていたの?」


「お姉ちゃん違うの。カップケーキ食べて欲しそうだったのに、私照れちゃって」


「そうなんだ結菜は正直を覚えた方がいいよ」

 そしてシスコンである。鋭い視線が貫通した。


「それにしてもいっぱい貰ったね。何人から貰ったの?」


「二人」

 葵があぁ、と言って顔をしかめた。そうだよね、追加でって両人から十個ずつ貰ってきたら引くよね。分かるよ。反対の立場ならそう思うもん。


「モテるんだね。良かったじゃん」

 何もよくないけどね。そう言いたげだった。口角を上げることすら出来なかった。


「けっこう美味しいよ。お姉ちゃん」


「何がけっこう美味しいよ。お姉ちゃんよ」

 何か言ったかと結菜の口が動いた。


「まぁ、ゆっくり食べよう。残った分は冷凍にして我が家で食べてやろう。それで味は?」


「チョコレートとプレーンとベリーだと思う」

 結菜は包装を外した。傍に置いた水を手に持ちつつ赤色のカップケーキを口に運んだ。


「どう?」


「これどっちだっけ」


「このピンクのは奏ちゃん」

 そうして楓のカップケーキを結菜は口に運んだ。


「どう?」


「美味しいけど、これの十個は飽きる」

 そうだよね。十個はキツイ。


「お茶淹れてあげるから、みんなで食べよ」

 葵は台所に消えていった。


「世の中分からないよな。なんでこんな女が女子高校生からモテるのか。米の研ぎ汁はまずかったな」

 偽カルピス事件が一人の女の子の人生を狂わせたのか。当時はめちゃくちゃ楽しかったけど、ごめんね。結菜ちゃん。



 休み明け、用務員室の前に二人の女の子。用があるのは二人だけど野次馬がたくさん。


「それでどちらのが美味しかった?」

 伝わる圧にどちらを選んでもバッドエンドを迎えそうな予感。


「どっちも気持ちがこもってて良かったよ」


「何それ、そんなの当たり前ですけど、お礼をてきとうにする人なんていないわよ」

 ここまでは読んでいた。奏はそうやってツンツンするだろう。楓は騙せる。ここでああいうふうに言えば、いける。


「それってさ、味が悪くてごまかしているの?」


「違うよ。どっちもすごく美味しかった。甲乙つけ難いだけで胸がいっぱいになったよ」


 いっぱい過ぎて胸焼けがした。

 楓はニヤニヤと喜んでいる。


「今回は奏に譲ってあげるけど、次は私が勝つ」

 よし、こちらは片付いた。


「奏ちゃんもすごく美味しかったよ」

 おっと、これは奏が性的に美味しかったと誤解されても仕方がない。その気持ち悪さに我ながら引いてしまった。


「当然よ。私が作ったんだもん」

 かわゆいな、おほー。ちょっと口角上がっているところとか、良きですな。


 余ったケーキ、大体二十個ずつはどうしたのか親御さんの胃を考えると気になるが、ここで下手を打って、在庫がこちらに流れ込んだら厄介だ。


「本当に美味しかったよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る