第15話 お菓子の感想

 放課後、小清水家が用務員室にやってきた。ノックが聞こえたが、無視したかった。念の為だと思ってお茶を何本か買った自分の準備の良さが憎らしい。


「どうぞ」

 早くもドアの向こうで小競り合いが起こっている。どちらが先に入室するか。騒いでいるうちに生徒が集まり始めた気配がする。



 帰りたい。業務内容に生徒のプレゼントを受け取るは入っていないはずだ。もう児玉先生でお腹いっぱいなのだ。これ以上腹に入れると消化不良を起こしそうだ。



 どうにか決着がついたのだろう。楓が入ってきた。バスケ部のユニフォーム。うむ、適度な薄さに覗く小麦色のハリのある肌、チラリズムが憎い。

 さっき児玉先生でお腹いっぱいになったはずなのに。性欲は湧かないが若さは素晴らしい。さて、素晴らしく無いのはスーパーの大きな袋に存分に入っているお菓子だ。


「今回私が先でいいって言われて、だから先に食べて」

 ドサっと置かれた可愛い包装のケーキぱっと見十個。きっと奏も同じくらい用意している。それにしても十個もきれいに包装しているな。女の子すごいな。


「全部包装するのにちょっと時間かかって、今日は寝不足」

 ますます今全部食べろと言われているようだ。


「オススメはどれかな」


「えっとね。これとこれとこれ…」

 聞かなければ良かった。要は全部です。


「その中で」

 深く掘り下げなければ良かった。全部です。


「お昼ご飯の後だし、今全部食べられないかな」

 どれが食べたいかを聞かれ、オススメを聞くと堂々巡りになるので、一番小さいやつを選んだ。


 楓はそのケーキの包装を外し両手で小さく千切った。


「あーん」


「いや、あかんやろ」


「なんで突然大阪弁?」

 女子高校生にあーんをさせるアラサー。ダメだろ。


「でも、全部食べたら口カラカラになっちゃうよ」


「自分で食べるからいいよ」


「あーん」


「ダメだよ。そんな」

 せっかくロリコン卒業したのに、子供は好きにならないって誓ったのに、また高校生こどもに気持ちが持って行かれてしまう。


「楓、遅い。カップケーキ食べるのにいつまでかかっているの? あ」


 私が高校生を襲う? ノンノンノン、そんなわけないだろう。

 私は楓の攻防に体を引いて、少し追い詰められたところが壁、近寄るカップケーキと楓の体。どう見ても私が襲われている方だろう。なのに、なぜ楓は赤面する。


「次、私の番だから早く出て行って」


「えー、まだ食べてもらっていないよー」


「どきなさい。早く出て行って」


「奏のばか。後から食べてもらうもん、緑また感想教えてね」

 そう言って楓は用務員室を出て行った。スーパーの大きな袋に入っているカップケーキと奏が持っている同様のケーキを残して。


 奏がらしいことは先日の騒動で知っていた。まさか大人にも絡んでいくタイプの百合かと思って戦々恐々としていたが、そんな素振りは無くオススメを聞くとこれとこれと二つほど出してくれた。


 さすがお姉ちゃん、ちゃんとわきまえてくれている。十個全部オススメより二個オススメは印象が良い。ベリー系の物とホワイトチョコレートを入れた物だった。


「あの子は全部チョコレートよ」

 ますますアラサーにはキツい。後で葵に声を掛けよう。あと、児玉先生にも。


「感想は?」


「とても美味しいです」


「あそ」

 奏も可愛いけどな、どこかインモラルなんだよな。


「これも食べてあげて」

 出されたのは半欠けの楓が作ったケーキ。


「どう?」


「とても美味しいです」


「こうしないとフェアじゃないからね」

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