第14話 美人で優しいよわよわな児玉先生
週明け、用務員室に異常は無し。
平和なのはいいことだけどね。
床を磨いて、窓を拭いて、職員用トイレの掃除をしていたら、とっくに十三時は過ぎていた。今から食堂に行けば貸切状態になるだろう。
甘ダレ唐揚げ定食。うーん、そそるな。トムヤムクンセット。すごいな、バターチキンカレーもいいね。グリーンカレーもある。なんだ? アジアンブームか?
「掛川さん、今からお昼ですか?」
おっほぉー、美人美術教師高嶺の花、児玉先生ですな。好みのクール美女。隠れ巨乳の噂有り。
「はい、掃除していたらこんな時間に」
「用務員さん雇うならあと二人、一人なら掃除要員のクリーナーさんを雇って掛川さんには整備でいてもらうとか」
「このご時世、仕事を貰えるのはありがたいので、勤めさせていただいております」
いつまでもロリロリ言っていられない。こういう大人のお姉様っぽい歳下の女がタイプに変わった。
心はいつだって二十歳だから、児玉先生はお姉様。メッて言われたい。
「掛川さん、掛川さん」
あっといけない。妄想は顔に出る。
「どの定食にするか決まりましたか?」
児玉先生は私の女にはならない。だって、男性教員の高嶺の花。私が入る隙間なんて無い。今は。
「温かいご飯なら何でもいいです」
「ではカレーにしましょう」
虚言をこぼす私にも優しくしてくれる。児玉先生は本当にいい子。
ハグしてくんかくんかしたい。
「バターチキンカレーとグリーンカレーならどれがいいですか?」
「児玉先生が選んでくださるのであれば、どちらでも」
きっと児玉先生は戸惑っていることだろう。歳下の女教師を困らせているのはいいですな。これがもっと親しければデコピンをしてくれるかもしれない。
「食券を」
食券をグリーンカレーに替えて端の席に座った。
「何でそんなに遠く座られるのですか?」
正面に座るのは恐れ多くて一つ開けて隣に座った。せっかくだから、隣にどうぞと言われてニヤニヤを精いっぱい我慢した。
「私、女子校だったので他の先生に敬遠されているみたいで、本当はこれくらいの距離感がちょうどいいと言いますか。ごめんなさい、私みたいな歳下の教員がこんなで」
ほうほう、これは美人ゆえに女子校で崇め奉られていた無自覚自己肯定感よわよわ美女教員だな。
それにしてもこの高校は校長先生他の先生もきれいな人多いな。顔審査でもしているのか? 良くない! 良くないけどやめて欲しくない。
なんて夢のような職場。美人女教師と仕事が出来る校長。きっと他にも原石は眠っている。
「この職場で良かった。私は児玉先生のお陰で昼からも頑張れます」
「私なんてそういいものでは無いですよ。ダメダメで他の先生方にもご迷惑をかけっぱなしで」
「大丈夫です。まだ若いうちは迷惑をかけてナンボです。いっぱい迷惑をかけてたくさん成長してください。先生の真面目なところを見てくれる人はたくさんいますから」
お、なんだよ私いいこと言えるじゃん。
「私、今日掛川さんとお話出来て良かったです。もし良かったらまたお話聞いてもらえませんか?」
くっ、連絡先交換までは無理か。次の次までに落ちるな。
「いいですよ。また話しましょう」
素直に頷いた児玉先生はサッサと唐揚げ定食を食べ食堂を出た。
私は一人の女性の心を救った。何か忘れている気はするけど、今はこの爽やかな余韻に浸りたい。
グリーンカレーのヒリヒリ感を覚えつつ、もういない児玉先生のスメルを鼻腔に覚えさせようとくんかくんかした。
頑張って忘れようにまだ、カップケーキが残っている。
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