第18話 三号館の用具室

 お詫びから一ヶ月。

 何事も無く日々は過ぎていく。六角レンチやドライバーはあるのだが、合わないサイズの物も出てきた。


 部屋の前にある机や椅子も捨てればいいのに、天板がきれいや導入したてという事情もあって、まだ使えるという判断をされて、残った物だ。


 試しにあの美人な校長先生に直訴して、ドライバーを貸してもらう。困った顔されてみたいな。よだれ出ちゃった。


「先生、ドライバーが足りません」


「用具室に一式揃っているそうです。これが鍵です。


 やはり曰く付きみたいだ。

 行きたく無い、どうしても行きたくない。鍵貰ったし、予算から買わない宣言されたし、仕方ないか。


 三号館への足取りは重かった。

 掃除のついでに行くか。

 モップを持って三号館に行くと教室の中に奏がいた。



 先生の授業をあくびをして受けている。

 あぁ、ねむ。早く終わってくれないかな。


 と、いうことを態度で示してた。


 目が合うと楓とは違う意味で厄介なので、目を逸らして掃除をした。

 楓は尻尾を振りながら飛びついてきて、奏は少し面倒なことを言われそう。そうでなくてもどこかでうっかり助けて、またお菓子二十個はアラサーには荷が重い。


 厳重だった。まず三号館の端にある階段に鍵、それをこえると地下に降りる階段に鍵、人が立ち入った形跡があった。用具室に南京錠。


 これは本当に曰く付きでは無いか。鍵束から南京錠の鍵を取り出して回した。開いた感触は無い。暗くて見えなかったが元々開いていたのだ。

 壊れているのか。鎖が扉もいとも簡単に取れた。なんだこれ、まるでみたいだ。


 中から話し声が聞こえる。他の職員さんかな、事務用品の予備を入れるような倉庫をまだ見つけていない。


「失礼します。ドライバーを」

 その時、扉は二枚もあったのに南京錠も鎖も人が入った形跡の謎が解けた。

 そうか、この倉庫は高校生がイチャイチャするのに使われた部屋だったのか。



 空白の時間。



「あのたまに人が入ってくる可能性のある部屋でしない方がいいよ」

 大人をいれない気遣いのある部屋、行ってはいけないは、気をつけての意味だった。

 若いな、地下倉庫で授業中にイチャイチャするのか。


 授業中はどうかと思うが、健全だと思うから何も見なかったことにしよう。午後の授業中にのぞいてみたら、誰もいなかったので、ドライバーセットを取り出した。


 部屋の中は狭く、よくもこんな場所でイチャイチャしていたな。壁には体育用のマットが立てかけられていて、足元は硬いコンクリートだった。


 自然とマットに目がいった。


 二度と来たくない、あんな気まずい数秒はもう訪れてほしくない。そう言えば二枚目の扉は鉄製だったな。


 用務員として何か出来ることは。


 翌日から倉庫に入る時に赤い磁石が二枚目の扉についていた。用事がある人間しか扉は開けない。

 南京錠の扉の横に両面テープで使う人へというメモを貼った。



「何かしら要件があって使われる方はこの赤い磁石をつけるように」



 大人には内装が痛んでいる箇所を直すのに危険なので、入らないで欲しいという建前を話した。


 職員の方も困っていただろうから、そういう建前が出来たのは良かっただろう。


 体育用のマット。


 あれは洗うべきだろうか、それとも。









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