第30話 イチャイチャ

 モテたい男子テニス部と普通に部活をやっているだけでモテてしまう女子バスケ部の夏休みは終わった。


 野球部も新体制で来年は甲子園と夢をみているらしい、女の子にモテる前提の男子テニス部よりかはマシだが、野球部も男子高校生だ。


 絶対に女の子にモテたいと思っている部員はいるだろう。私はまだ表に出てくる煩悩したごころを隠さない男子テニス部の方に好感が持てる。あほだけど。


 私の毎日は変わらない。出勤して、校内のチェック、電灯は変えたのでやることはさほどない。もうフルタイムでなくてもいいはずだ。おじさんはどうしていたのだろうか。


 ゲームを持ち込んでいいとのことなので、何かあった時の為の保険なのだろう。

 新学期も始まってすぐに試験がある。あの双子は用務員室に来ることが無い。それだけでストレスも少し減るものだが、試験問題を作る鈴香も食堂に来ることが無いのは少しテンションが下がる。


 今頃、慣れない問題作りに四苦八苦しているだろう。仕事なので仕方ない。それでも寂しい。用務員室で作ってくれてもいいのに。


 食堂で三週間くらい耐えるとげっそりとした鈴香と再会した。そのやつれようと言ったら、ご飯を抜いたのかと心配になるくらいに。私が高校の頃は二学期の中間に美術のテストがあった覚えがない。試験というのは生徒と教員がやつれるもの、ないほうがいいのではないだろうか。


「あ、はは。緑、久しぶりです」


「うん、鈴香久しぶり」


「採点がやっと終わりました。芸術は難しいですね」


「しばらくは安静にしたほうがいいよ」

 そうはいかないのだ。秋にはアレが来る。


「もうすぐ教育実習生が来るので、その準備をしないと」

 自分もしたことのあるものだが、受け身側はどう思うのか。準備は大変そうだな、私が背中を流してあげたいな、愛妻弁当を作ってあげたいな。


「緑?」


「あぁ、教育実習生だね」

 きょとんと不思議そうにこちらを見る鈴香。


「どんな子来るかな」

 私にとっては小娘や小僧だが、鈴香にとっては初めての後輩だ。気持ちは私よりは暖かいものだろう。


「これからちょっと大変だけど、頑張らないと大学生に顔向け出来ませんよね」

 しゃきっとする鈴香可愛い。一昔前の奏を彷彿とさせる姿だった。ロリコンは辞めたけど可愛いものは可愛い。


「気は抜けないね」

 そう言うと鈴香は私の隣に座った。そっと私の右手を握り五秒。


「充電完了です」

 これは襲ってもいい事案だと思う。衝撃的過ぎていなせなかった。


「え、なに」


「実習生にうつつを抜かさないように、可愛い子多いらしいですよ」


「いやいや、そんなそんな」

 なんで、手を握ったの、え、なにそれ、なんで、そんなの、へ?


「何してんの?」

 0℃未満の冷たい声、そんな声を出される筋合いはどこにもない。筋合いがあるとすれば鈴香である。


「その、えっと」

 さっきの自信と責任感を帯びた態度から急によわよわになってしまった。


「もうすぐ教育実習生が来るから、その話をしていたの。奏こそどうしたの?」


「お弁当当番の楓が寝坊して使わけ、だから」

 そう言って鈴香が座っている位置と反対の隣に熊ちゃんのポーチを置いた。


「動かしたら殺すから」

 券売機に歩いて行った奏を見て、前に一緒に花火行ったから心の距離は近づいたと思ったのに。



 ん? 食堂を使うしか? ということは。



「緑、私の隣でご飯食べてね。決定だよ!」

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