第31話 昼休み修羅場戦線異常なし

 なぜか見せつけるように肩にもたれかかる鈴香。笑顔の固まる楓、後ろにいるであろう奏。見ないふりをする職員諸君。


 どこから口を出せばいいのか分からない。


 この空気の中で肩にもたれる鈴香に「ちょっとー、何してんの?」なのか、楓に「いいよ食べよう」というのか、奏に「隣においでよ」というのか。誰か教えて欲しい。


 先に口を開いたのは奏様だった。


「あのさ、花火大会の時も思ったけど、ちゃんと決めて欲しいわけ。私か楓かそこの女か。緑の言うことなら私と楓は聞くから」


「児玉先生、何をもたれているの? ちゃんと起きて」


「緑の肩寝やすいもん」

 貴重な物を見れた。美人教師のデレデレした姿、方々で見られる両拝み。そんなのはいいのだ。早く誰か助けて。


「奏は深く考えすぎなの。こういう時はこうするのが一番だよ」

 楓は奏が置いたポーチを私の対面にずらして私の隣に座った。


「ねぇ、緑は大きい方が好き? 私、まだまだ伸び代あるよ」

 寄せ付ける身体、耳に囁く甘い声、伝わる体温。


「大きい?」

 胸か、胸だろうな。どうやってごまかすのがいいか。

 視覚的には薄い方がいいが、肉感的に大きいものを揉みしだきたい。

 そんな経験はあまり出来ない。


「こうさ、魅力的なさ」

 ここで楓に「今でも十分魅力的だよ」は悪手だ。重ねて「もっと緑を惚れさせたい」とか言ってくると思う。


「あのね。他の生徒もいるのになんで女を侍らせているの。色ボケ用務員さん」

 後ろから奏の声がした。


「今大事なところなんだから、大きい方がいいのか、小さい方がいいのか。その二つはかなり大きな違いなんだよ」

 楓は一瞬顔を奏の方に向けた。


「貧乳なのはそのうちどうにかなるわよ。成長期だし、その前にコレをどけるわよ」

 鈴香は奏によって、いとも簡単にのけられてしまった。


「昼食時間はあと二十分。さっきの問いの続きをしましょう」

 身長が高いのかどうなのかなという問いは私の頼んだかけうどんがぶよぶよになるまで続いた。


 いい加減ご飯が食べたい、これでは花火大会の時と変わらない。変わるのは時間制限のあることと、二人の位置が変わらないことだ。


 鈴香は奏にどかされた後に勤務を思い出したようでサッサと食堂を出て行った。


「結局、胸の大きさはどう? 私みたいなスレンダーもいいと思うよ」

 そう楓が言った時に予鈴が鳴った。


「あんたパンは買ったの?」

 奏の問いに楓は額を押さえた。


「今から買ってくる」


「五分で食べると喉詰まるよ」

 私の声に大丈夫といい、売店に入って行った。


「危なかったわね」

 本当に良かった。身長ということにしていたのに直接的に聞かれるとごまかせない。


「次は見逃さないから。スレンダーが好きと言っても大きい物を揉みしだきたいという人も多いそうだからね。緑はどっちかな?」

 私はうどんに目を向けた。歯応えも喉越しも無いうどん。二人の女の子は本鈴が鳴る頃にはいなくなっていた。


「放課後で無いのに三人の女性に緑と呼ばれる態度はいささか職員として逸脱しているのでは」

 背後から聞こえた美人つよつよ校長先生の明るい声。振り返って認識した。

 校長先生ちょっと怒っている。


「児玉先生と小清水の姉妹はこちらで指導しますが、いくら小清水さんの好きな大人であっても掛川さんが一線を引いてもらわないと」


「申し訳ございません」


「今日は昼から実習生が事前の挨拶に来ます。教育実習期間で一部の教師や生徒と仲良くする職員は好ましくないので」


「申し訳ございませんでした」

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