31 女帝(元男性)ルーシ・レイノルズ

 大量のボディーガードに囲まれ、彼女は女帝のようなオーラを醸し出しながら、ヒールの音をカツカツと鳴らす。


「ルーちゃん! なにしてたの!?」

「仕事の連絡さ。最重要機密なので、パーラにも話せないなぁ」


 呆然と突っ立っているキズナに、ルーシは目を向ける。


「コイツがキズナか」

「うん! いっつも話してるキズナちゃんだよ!」

「そうかい……」


 刹那、キズナは危険を察知した。女帝のオーラが獣のような雰囲気に変わったのである。

 だが、そのときにはすでに遅かった。キズナと銀髪少女ルーシとの間合いは狭められる。そして、キズナの喉元には拳銃が叩きつけられていた。


「見えたかい?」

「見えなかったよ」

「なら特訓が必要だな? セブン・スターズの予備生は、これくらいの速度で詰めてくると思え」

「ちょ、ちょっとルーちゃん!?」

「どうした? パーラ」

「いきなりキズナちゃんに拳銃向けないでよ! びっくりしちゃってるよ!?」

「これで?」

「これで!」


 実際漏れそうなくらい驚いているのだが、キズナの反応は傍から見れば薄かった。17億メニーの少女という肩書きが効いているのかもしれない。


「恐怖感覚が壊死しているのかい? キズナ」

「いや、チビリそうだったよ」

「そうかい……。ただ、顔に出さないのは良いな。相手が勝手に警戒してくれるだろう」


 ハンドガンをしまい、ルーシは道路に停まっている黒塗りのワンボックスカーを指差す。


「さて、行こうか」

「どこへ?」

「オマエを鍛えるために、離島へ行くんだよ。車で移動し、ヘリで無人島に向かう。異論は?」


 突っかかったのはキズナでなく、パーラだった。


「でも、ルーちゃん。連邦政府は3日以内にセブン・スターズの候補生を潰せ、って言ってるよ? 孤島行って間に合うの?」

「間に合う。感じ取れる限り、コイツの素養はセブン・スターズにも負けていない。予備生なんて軽く越えてくれるさ」


 即答だった。まるで台本があるかのように。


「往くぞ、キズナ」

「うん」

「え。私、着いてっちゃダメな流れ?」

「構わないが、転生者同士話したいことがあるのさ。できればふたりだけにしてほしいな」


 ルーシは財布から100メニー札を7枚取り出し、パーラの胸元へゆるく押し付けた。


「タクシー代だ。悪かったな、こんな夜遅く」

「んー。ずるいなぁ。ルーちゃんは」

「分かったよ」


 ルーシは途端にパーラを抱き寄せて、キスした。銀と金の長髪が風でなびく中、蕩けていくパーラと大人っぽい笑みを浮かべるルーシがそこにいた。


「続きは3日後だな。きょうはこれくらいで我慢してくれ」

「うん!」


 他人の色恋沙汰なんて見ても仕方ないので、キズナはすでに車へ向かっていた。


「待てよ、キズナ」


 そんなキズナを追いかける形で、ルーシとボディーガードが車に乗り込む。


「車内は完全に防音だ。びっくり仰天の暴露をしねェか?」

「暴露?」

「私もオマエも、元は男だったって事実だよ」

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