20 淫魔の片鱗
やはりというか、その話はふたりだけの秘密らしい。ただ、ふたりの相談役であるホープはすべて知っているようだ。
キズナも深掘りしたところで答えは帰ってこないと知り、「分かりました。いつか当人たちに訊いてみますよ」と返事しておく。
「そうしてあげて~。ただね、キズナさん」
「なんですか?」
「アーテルちゃんとイブちゃんとの間に入るつもりなら、かなり大変だよ? こじれてるのは事実だしね」
「でしょうね。だけど、ぼくはもうふたりと仲良くなりつつあるんで」
そう答えた頃には、メントがキズナと肩を組み始めていた。
「キズナ~! 暗い顔するなよ~!! 困ったことあれば、あたしたちに話してくれよな~!!」
同時にパーラの目がトロン、と蕩けている。肩を組まれて動けないキズナに、パーラが近づいてディープキスしてきた。
「キズナちゃん、可愛い~!!」
「ああ、うん。ありがとう」
(酒臭いなぁ)
酒池肉林。そんな夜が過ぎ去っていく。
*
「ねむっ。てか、身体痛い」
ホープを除く3人は、(床を靴で歩くというのに)地面に雑魚寝していた。
気がついたときには、メントの抱きまくらになっていたキズナは、なんとか腕を動かして携帯電話を確認しようとする。
が、スマートフォンはだいぶ離れた場所にある。メントを振りほどかないと、たどり着けないだろう。
(メントさん、力持ちだからなぁ)
170センチをゆうに超える高身長と、筋肉質な身体つき。野球部所属で、ロスト・エンジェルスにおいては花形とされる、3番ショートを務める運動神経抜群な大学生女子。そんなヒトの腕を振り払え、というのが無理難題だ。
そこまで考えたところで、キズナはなんとなく思い出す。そういえば、サキュバスと人間のハーフは高層ビルをも片手で壊せる怪力が備わっているとかいないとか、といった話を。
(試しに軽く押してみよう)
そっと、手に力を入れてメントを振り払うように押す。
そうしたら、メントは本棚の方向まで吹き飛んでいってしまった。かろうじて棚は倒れなかったものの、ビクッとなるような音が響いた。
「え、これでも起きないの?」
それでもメントは眠り続ける。ひょっとしたら死んでいるのではないか、と訝るほどに。
というわけで、キズナは十数メートル離れたメントに近寄って死んでいないか確認する。
(ああ、普通にいびきかいて寝てる。良かった)
まあ、頑丈なのだろう、とキズナは身体を伸ばしながら思った。
そんなわけで、みんなが寝静まった深夜4時に、キズナは携帯を見る。
「あした、休みなんだ」
きのう連絡先を交換したイブからメッセージが来ていた。どうやら本当にデートへ行くつもりらしい。
「了解です、楽しみにしてます、と」
デートプランは彼女が考えてくれるようなので、あとは待ち合わせ場所に遅刻せず向かうだけだ。
またもや睡眠時間が6時間に満たない、中学1年生の半サキュバス少女キズナは、サングラスを外してロスト・エンジェルスの言語を学び始めるのだった。
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