33 ふたりの先輩

「随分機嫌が良いね」

「むしろオマエの機嫌が悪すぎるんだよ。笑っていれば良いことあるぞ?」

「どうだろーね」

「ま、模範解答がない質問だし、オマエの考えが知れて良かったよ」

「これだけで分かるものなの?」

「分かるさ。これから3日間みっちり鍛えるんだし」

「そりゃ、そうだけどさ」

「ところで、キズナ」ルーシはスマートフォンを取り出し、「コイツらを知っているか? アーテル・デビルとイブっていう、オマエの通っている学園の評定1位と2位だ」

 特に隠す理由もないので、「あるけど」とキズナは即答した。

「なら、なおさら良い」


 どこか意味深長な態度だった。キズナは頭をかしげる。


「このヒトたちがなにか関係あるの?」

「あるよ。オマエが“カイザ・マギア”を使ってしまったヤツと、それを察知できなかった大間抜けだ。そうだろう?」

「ひとつ訂正してよ」

「なにを?」

「アーテル先輩は大間抜けなんかじゃない」


 ルーシは苦笑いにも近い破顔を見せてくる。

 だが、アーテルに対する評価だけは許せない。彼女はなにも悪いことをしていないのに、間抜けと言われる筋合いはないからだ。


「分かったよ、そんな睨むな。可愛い顔が台無しだ」

「うん」

「オマエ、感情が読めないなぁ。普通、喜んだり怒ったりするものだぜ?」

「どっちの感情も沸かないよ。顔が良いに越したことはないけど、それがすべてじゃないし」

「いよいよ愉快なヤツだ。ああ、話の腰を折っちまったな。端的に言おう。いまから向かう無人島にコイツらもいる。仲良くやれよ?」

「へ?」

「仕方ないだろ。オマエの先生のひとり、ホープを仲介に頼まれたんだよ。私たちを強くしてください、ってな」

「なんで?」

「理由は当人らに聞け。私はオマエらを短期で強くするだけだしなぁ」


 どうせ種も仕掛けも分かっているだろうに、ルーシはしらを切る。ただ同時に、この銀髪で葉巻愛好家の少女がわざわざアーテルとイブの名前を出したというからには、本当にふたりも合流するようだ。


「ま、着いてみれば分かるさ。ただ覚悟しろよ? 私の特訓は厳しいからな?」

「嫌だなぁ」

「あのふたりと同じことを語り合うだろうさ」


 *


 キズナとルーシは、ヘリコプターの停まるポートへたどり着いた。特に飾り気のない、普通のヘリポートである。ヘリ自体も民間用(種類なんて知らないが)のものだ。

 そして、ルーシの宣告通り、そこには長い黒髪の少女と短い白髮の少女がいた。


(まだぼくがいるって気がついてないな)


 こうして見てみると、対照的な髪色と長さだ。顔立ちは同じくらい整っているし、身長も同じくらいだが、性格などを鑑みると好対照なふたりとも感じる。


「よう。ルーシ・レイノルズだ。そして……」


 そんな中、ルーシがキズナを引き連れる形でふたりの前に現れた。


「え?」

「え?」

「はい」


 キズナは見事にハウリングしたふたりの先輩へ、軽く手を振った。

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