16 魔性の女(少年)
対照的にキズナは表情を変えない。表情筋が死んでいるのではないか、と自分でも訝るほどに。
「……、キズナ。さらにもうひとつお願いして良いかしら?」
「なんでしょう?」
「私の派閥に入ってくれない?」
「そう言われても、まず、派閥っていうのが良く分かんないんですよ」
「そうね……。まだ入学してから2日目だものね」イブは一旦言葉を区切り、「KOM学園の徒党は、いわば助け合いのために存在するのよ。集団的自衛権って知ってるかしら?」
「所属するヒトに危害が加わった場合、他のメンバーによる保護が受けられると?」
「そういうことね。そして、私はこの学園で一番大きい派閥の長なのよ」
「なるほど。有力な生徒を囲っておけば、ぼくにとってもみんなにとっても得になるわけだ」
群れることで、互いの安全を保障し合う。イブの実力がどれほどなのかは分からないが、総生徒3,000人を超える学校で、もっとも巨大な派閥の長というのならば、きっとかなりの実力者なのだろう。
ただ、サングラス越しにも分かるくらい目がピンク色に染まっているイブの仲間になることを、この場で承諾したら、なにか問題が起きそうな気がする。
「でもまあ、答えはいますぐ出さなくても良いですよね? そうだな……1週間後くらいしたら返事しますよ」
適当に期限を決めておく。そして予鈴が鳴ったので、キズナは、「もう行きます」とその場から離れようとする。
が、そんなキズナの袖をイブは引っ張る。どうやら延長戦が始まるようだ。
「待って! 別に派閥への誘いは、いつ返事してもらっても構わないけれど……」白い髪のイブは、「あの女からは手を引いてほしいわ。分かるわよね? アーテルのことよ」
ふたりが険悪なのは、やはり事実だ。そうでもなければ、きのうの一件はなかったはずだから。
「アーテル先輩から手を引け? 悪いですけれど、貴方にぼくの交友関係に口出しする権利はないはずですよ?」
「そ、それは……」
「御二方になにがあったのかは知りませんけど、ぼくはアーテル先輩のことが好きなんです。そんな悪いヒトにも見えませんしね」
「……、それは友だちとして? それとも恋愛的な意味合いで?」
「友だちとして、です」
「そう……」
予鈴が鳴り止んだ。いい加減教室に向かわないと、悪目立ちしてしまう。キズナはそっとイブの手を振りほどき、「それじゃ、また今度会いましょう」と伝える。
立ち去っていくキズナを見て、イブはぼそりとつぶやく。
「魔性の女ね……。こっちは胃が痛くなるくらい好きだというのに」
キズナは校舎内に入っていく直前、まだ自身を待っていたアーテル・デビルに手を振る。
「……、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。派閥に誘われたけど、とりあえず考える時間をくれって言っておいたし」
「わ、私のことはなにも言ってなかった?」
ここはあえて、嘘をついておこう。
「うん、言ってなかったよ」
アーテルとイブが揉めているのは分かり切っている。そして、アーテルのメンタルがそう強くないことも。
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タイトル、あらすじともに大幅変更しました。ご了承ください。ラブチー。
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