15 ”昔は”仲が良かったふたり
「うん、アーテル先輩」
バスは何事もなく、キズナたちをKOM学園校舎前まで送り届けた。
「じゃ、うちは他の子も見なきゃだからさ。特にイブちゃんのことをね~」
そう言い、バス内でアーテルの悩み相談に丁寧に答えていたホープは去っていった。
場にはキズナとアーテルが残され、彼女たちは中等部と高等部に分かれている校舎までともに歩いていく。
「ねえ、アーテル先輩」
「なんですか……じゃなくて、なに?」
「あの白い髪の先輩がイブってヒトなんでしょ? きのう散々もめてたけど、なにかあったの?」
「……、昔は仲良かったんだけどね」
なにやら触れてはならない雰囲気だ。キズナは、「そうなんだ」とだけ返事し、場はまたもや静まり返る。
そんなキズナとアーテル・デビルの分かれ道、そこにはイブがいた。
彼女は白いボブヘアの美人であり、きのう自己防衛のために“チャーム”をかけた相手でもある。
「あ……」
「大丈夫、ぼくがなんとかするよ」
“チャーム”で得た愛情なんて偽物だと考えているが、同時にその術式にはまった者はどうなるのかは知っておきたい。だから、キズナはイブのもとまで一歩ずつ歩みを進めていく。
近づいていくにつれ、イブの顔はりんごのように赤くなっていった。ただ、きのうのように走って逃げようとはしない。
「やあ、イブ先輩」
フランクな挨拶とともに、キズナとイブの距離はひそひそ話ができるくらいまで狭まった。
ただ、イブは返事をしてこない。キズナはすこし訝るような表情になる。
そのときだった。
「あの、名前訊いても良いかしら?」
「あれ、名乗ってなかったっけ。まあ良いや。キズナです」
「あと連絡先も交換しない?」
「ああ、良いですよ」
キズナはすこし笑みを浮かべる。
スマートフォンを取り出し、キズナとイブは携帯を交差し合う。イブの手は露骨なまでに震えていた。
「あと、もうひとつお願いがあるのだけれど、訊いてくれないかしら?」
「なんですか?」
「そ、その、今度学校が休みの日にデートしない?」
「デート?」
「あ、違うわよ? デートっていうのは便宜上の話であって、ただ遊ぶだけだから」
キズナもイブも女性。イブが同性愛者でもない限り、デートなんて単語は使わないはずだ。どうやら“チャーム”の力は本物らしい。
「あの中学生、今度はイブ様にすり寄ってるわね」
「きのうはアーテル様だったのに。そういえば、こんな噂聞かない? 7,000万メニーの“評定金額”をつけられた中学生がいるって」
「まさかあの子が7,000万メニーの子なの?」
「私も分からないけれど、KOM学園の二大巨頭に近寄れるってことは……」
(だから聞こえるくらいの声で陰口叩くなよ。いや、聞かせたいのかな?)
そんな名も知らぬ女子生徒の陰口は、おそらくイブへも届いているはずだ。
「ね、ねえ。キズナ」
「なんですか?」
「貴方が7,000万メニーの中学1年生なのかしら?」
どうせ隠していても発覚することだろうと、キズナはちょっといたずらっぽい笑顔を見せながら言う。
「そうですよ。どうも、ぼくには7,000万メニーの値札がつけられてるらしいです」
イブは驚愕に染まったような、そういう表情になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます