8 新たなスタートへ
「はやっ。すごい情報網だね」
いつ“評定金額”が公示されたのか知らないものの、“カインド・オブ・マジック学園”の情報筋は本物のようだ。転生してから2日目、キズナの外堀は埋め立てられつつあった。
「KOM学園? あー、最近できた学校だよね!」
「そーそー。あたしらの学校は一応男子いたけど、ここは完全女子校。だからあの学校よかぁ平和なんじゃねえの、って思ってたんだよ」
「私たちの学校、ホントひどかったもんね~。まあ、私はメントちゃんとかいたから平和だったけど!」
「あたしの知らねえところで詰められてたのに?」
「他の子に比べればマシだよ、おカネ奪われただけで済んだしね……」
「髪の毛焼かれてるヤツとかいたしなぁ……」
両者とも、苦虫を噛み潰したような顔で、壮絶そうな過去を振り返っていた。これには、キズナも戦慄するほかない。
だからこそ、パーラとメントは、キズナへ自分らの通っていた学校を勧められない。普通、OBとして関われる母校を紹介しそうなものだが、それでもなお勧められない、そこまでひどい学校だったのであろう。
「なんか不安だな」
「大丈夫、キズナちゃん。私たちの学校より、治安悪いところなんて存在しないから!」
「そうだな。あたしらの母校とKOM学園じゃ、疫病と風邪くらい差があるぞ?」
「まあ、オファー? が来てるなら、もうそこに決めちゃおうかな。さっきメントさんが言ったような、契約破棄のオプション付きで」
決断は早いほうが良い。キズナはソファーにもたれて胃を落ち着かせながら、そう宣言するのだった。
*
ロスト・エンジェルス連邦共和国。19世紀が始まったばかりだというのに、シュミレーション・ゲームで無作為につくったようなビルが立ち並ぶ近未来国家である。
そんなすこし不思議な異世界へ転生し、一ヶ月が経過したサキュバスと人間とのハーフがいた。
「キズナちゃん、似合ってるよ! サングラスもね!! まあ、 KOM学園って制服着用義務ないんだけどね!」
「オマエ、中1なのにスタイル良いよなぁ。身長も年齢考えりゃ高いし……てか、そのバスト分けてくれよ」
女子用の学生服を羽織ったキズナへ、思ったことをそのままぶつけてくるふたりの友だち。こういう子たちに囲まれていたら、自殺に近い形で転生することもなかったのかもしれない。
「ねえ、ふたりとも」
「なーに?」
「なんだ? 改まって」
「ありがとうね。散々な目に遭って転生したし、逃げ回ってばかりの前世だったけど、ふたりのおかげで自己嫌悪も減ってきた。だから、ありがとう」
素直な感謝だった。自己嫌悪の塊だった少年は、肯定感などなかった少年は、承認欲求もまるで満たされていなかった少年は、異世界まで逃げおおせてようやく、自分の人生の主人公になれたのだ。
「おいおい、これから死ぬわけじゃあるめえ! キズナ、オマエの人生はここから始まるんだよ!」
「そうだよー! 逃げることなんて恥でもなんでもないしね!」
明るいふたりの言葉に、キズナは頬を緩めるのだった。
新たなスタート。新たな人生。くだらない過去を捨て、絶対成功させてみせる。
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