23 デート中、喧嘩1分前

「そう。初めての相手になれて光栄だわ」


 イブはキズナの微笑みに見惚れているようだった。が、すぐに我を取り戻して、言う。


「ごほん。ここにいても仕方ないわ。お洋服、買いに行きましょう」

「分かりました。でも、事情聴取とかしなくて良いんですか?」


 そう言ったとき、パトカーがサイレンを鳴らしながら向かってきた。

 イブは首を振って溜め息をつきながら、「ちょっと話してくるわ」と警官たちのもとへ出向く。


(ホントに大丈夫なのかな?)


 キズナに拳銃を突きつけた男は、身体中にガラスの破片が突き刺さっている。意識もないだろう。

 それなのに、警察たちが正当防衛、あるいは過剰防衛だと認めてくれるものなのか。

 そんな謎ばかり抱え、キズナは荒れきったおしゃれなカフェの席でイブを待つ。


 *


 事情聴取は20分程度で終わった。遠目でイブを眺めていたが、彼女は信じがたいくらい堂々としていた。それが故なのか、警官たちも事件性はないと判断したらしい。


「待たせたわね」

「いえいえ。イブ先輩が捕まらなくて良かったです」

「私が捕まるわけないわ。それよりも、予定通りお洋服を買いに行きましょう、キズナ」


 イブはキズナの手を引っ張りながら歩き出した。


(優しいんだか怖いんだか……)


 そう思いながらも、キズナは手を引かれるままに彼女へついていくことにした。


 *


「うーん、どうしましょうか」


 街角にあるいかにも高そうなファッションショップの更衣室で、キズナは悩んでいた。

 というのも、イブが持ってきた服がすべて500メニーを越えているからだ。500メニーといったら日本円換算で50,000円。

 いくらイブが年上だからといって、女子高校生相手に累計15万円ほどの洋服を買わせるのはいかがなものだと思ってしまう。


「というか、黒系の服が好きなんだな。イブ先輩」


 持たされた服は、すべて黒を基調としたものだった。コートも、セーターも、パンツも、だ。


「とりあえず一番安いヤツにしておこうかな」


 なにせ服全般を取り替える勢いだ。そんなに、キズナのファッションセンスが気に食わなかったのだろうか。


「着替え終わりました~」


 総額1,600メニー、要するに16万円のコーデが出来上がった。キズナはカーテンを開ける。

 黒いロングコート、同じく黒いスキニージーンズ、トドメに黒のインナーセーター。

 これではまるで、海外セレブみたいな格好だ。キズナの財布には10メニー札が2枚しか入っていないのに。


「良いじゃない。貴方スタイルが良いから、良く似合ってるわ」

「ありがとうございます。でも、本当に買ってくれるんですか?」

「おカネならあるわ。まあ、おカネしかないとも言えるけれど」


 イブの口調は意味深長であった。ひとまず深掘りはしないことにする。


「そう。おカネならいくらでも……」


 しかし、気まずい雰囲気になってしまった。なにやら闇が深そうなので、キズナもフォローの仕方が思いつかない。


 キズナは服を買ってもらい、それを着たまま会計を眺める。


「1,600メニーです」

「カードで」

「はい」


 そもそも高校生がクレジットカードなんて持てるものなのか、とかどうでも良いことを考えてしまう。

 とはいえ、服のおかげでだいぶ身体が暖かくなった。ロスト・エンジェルスは寒い国なので、防寒性能が非常に高くつくられているらしい。


「さて、適当に街でも歩きましょうか」

「そうですね」


 イブがデートプランを建てている上に、キズナはデートなんてしたことがないので、彼女に従う。

 そんな中、


「え」

「え?」

「チッ!」


 偶然、ふたりはアーテル・デビルを眼中にとらえてしまう。

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