18 いっしょに帰りたかったらしい

 そんな会話を数分ほど交わし、キズナは無駄に装飾鮮やかな校門前にたどり着いた。

 気温はなんと3度。大慌てでメントからストッキングを借りたが、それでも寒い。朝方はすこし足回りが熱いくらいだったが、この驚異的な寒さの前には無意味だ。

 それに、一応見た目が女子なので、パンツを見られないように動かないといけない。階段を上るとき、スカートを抑える羽目になるとは思ってもなかった。


「って、なんで帰ってないのさ。アーテル先輩」

「き、キズナちゃんといっしょに帰りたかったから……」


 ロスト・エンジェルスではある意味珍しい、黒髪ロングヘアの少女アーテル・デビルは、寒波に悶えながらキズナを待っていたらしい。


「そりゃ嬉しいけど、風邪引くよ? 屋内で待っていれば良かったのに」

「居場所がないんだもん……」

「たくさん教室あるんだから、空き部屋くらいあるでしょ? 入学2日目だから分かんないけどさ」

「や、イブさんの派閥メンバーが睨んでくるから、胃がキリキリして……」

「難しい話だねえ……」目を細めた。


 一問一答で終わる話でもなさそうだ。

 本当はアーテル、あるいはイブから関係が険悪になった理由を聞かないと動きようがない。しかし、アーテルにその話をさせるのはすこし酷だろう。いまだって顔面蒼白状態なのに。


「まあ良いや。さみぃし早くバス乗ろうよ」

「う、うん」


 *


 いつも通りパーラとメントの家へ帰ってきたキズナ。ただ、リビングがすこし騒がしい。パーラとメントが(ただでさえでも声が大きいのに)、楽しそうに談笑しているからだ。


(誰か来てるのかな?)


 キズナはリビングのドアを開け、「ただいま」と伝える。

 暖炉の熱波が冷え切った足を温め、かじかんだ手を解く。なんとありがたいことだろうか。

 そして、パーラとメントが騒がしい理由も分かった。きょうの朝に出会った、スクールカウンセラー志望のホープが尋ねてきているからだ。


「おかえり~!! キズナちゃん!!」

「おお、生徒が帰ってきたぞ! ホープ先生!」


 すでに酒を手に持っているのは気の所為に違いない。キス魔とすぐ絡み酒してくるヒトが、2日連続で飲んでいるなんてありえないはずだ。


「あっ、お邪魔してます。キズナさん」


 ホープは申し訳無さそうにペコリと頭を下げてくる。それにつられ、キズナも頭を下げた。


「遠慮するなよ~ホープ~。ほら、キズナも座りな~」


 ダイニングテーブルに座る。きょうの夜飯はオートブルのようだ。皿とナイフとフォークがすでに用意してあったので、とりあえず食べてみる。


「うまい」

「でしょ! ホープちゃんが来るから気合い入れたんだ!」

「ほへー。ところで、失礼かもしれないですけれど、ホープ先生はなにをしに来たんですか?」


 確かに失礼だぞ、キズナ。


「いやー、アーテルちゃんとイブちゃんの両者から話訊くと、キズナさんの話ばかりだったからさ。そこらへんを話しておこうと思ってね~」

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