6 規格外の半サキュバス少女(少年)

 酔っ払っているように見える、実際酔っているであろうメントは、されどしっかりした語気でそう答えた。


「ほへー。メントさんの学校ってそんなに荒れてるの?」

「荒れてるなんて次元じゃないさ。定期的に行方不明者が出るような学校だぜ~?」

「こわっ」

「あたしらの学校は“強さこそが美徳”だからな。それに比べりゃ、“カインド・オブ・マジック学園”はだいぶ平和らしい。女子校だしな~」

「女子校」


 見た目が銀髪ボブヘアの少女であるとはいえ、中身が男子である以上、女子校なんて編入して良いものなのか。


「まあ、女子校だからって完全に平和とも限らんけど~」

「どういう意味で?」

「男子は腕力で勝り、女子は魔力で勝るからな。魔術使ったいじめの可能性は否めんってことさ。てか、キズナって前世じゃ共学の中学行ってたの~?」

「うん。ほとんど行ってなかったけどね」

「不登校?」

「そんなところ」

「なら、なおさら“カインド・オブ・マジック学園”のほうが良いな~。あそこ、結構登校拒否児に対するカウンセリングとかも充実してるしよ~」

「だけど、平和とも限らないんでしょ?」

「キズナ~、魔術師養成学校の治安なんて、期待するほうがどうかしてるぜ? それでもあの学校はいじめ撲滅とカウンセリング、あと異世界人へも優遇制度とってるしな~」


 2枚目のピザに手を伸ばした頃には、すでにメントが残りすべてを食べ終わっていた。まあ小腹を満たせただけ良かっただろう。


「ま、あたしはあした学校だしとりま起きてるけど、オマエは二度寝かましちゃいな。疲れとるには、寝るのが一番だしよ」

「……。慢性的な不眠症なんだよね、ぼく」

「呼吸器処方されたんだろ? あれって結構リラックス作用強いから、吸って横になってれば眠れるさ」


 メントはキズナの背中を叩く。優しく、撫でるような、くすぐるようにも。


「そうしてみるよ。ピザとサングラス、ありがとうね」

「気にするなよ。あたしらは友だちだろ?」

「そうだね。たった一日くらいしか関わってないけど、前世の誰よりも大切な友だちだよ。ふたりは」


 そんな言葉とともに、キズナは自室に戻っていくのだった。


 *


「──つまり、この転生者はサキュバスの血が入っていると?」

「ええ。もはや絶滅したはずの魔族の血が、彼女には確かに入っています」

「そうか。精密検査のおかげでおおよその“市場価値”は出せたのだろう?」

「もちろん。年齢や転生からまだ1日とすこししか経過していないことを鑑みれば、極めて異例な金額となりますが……」


【転生者】

【淫魔と人間のハーフ】

【評定金額:7,000万メニー】


「7,000万メニーか。13歳でこの金額は前例がない。だが、前例は塗り替えねば意味がないからな」


 二度寝から目を覚ましたキズナ。時刻は昼の10時頃、そろそろ起きて活動すべきだろう。


「ふああ~。食べたあとすぐ横になると胃が荒れるんだよね~」


 きのう処方されたリラックス作用のある呼吸器を吸い込み、キズナは胃の痛みを落ち着かせる。安らかに臓器が動き始めているな、と感じたあたりで、キズナはリビングルームへと向かう。


「あれ、メントさん学校じゃないの?」

「いやいや、それどころじゃねえ。キズナ、オマエとんでもない“評定金額”ついてるぞ?」

「評定金額?」

「ほら」


 メントは自身の紙並みに薄いスマートフォンを見せてきた。相変わらずなんて書いてあるのか読めないが、自身の顔写真と“7,000万メニー”という金額くらいは理解できた。


「7,000万メニー? え?」


 日本円換算で70億円ほど。おそらくプライベートジェット機も買える値打ちである。


「良いか? “評定金額”はその人間の“市場価値”で、ソイツがどれくらいの価値があるのかを算出したものなんだ。基準は魔力量や魔術に技術力、あとキズナの場合はサキュバスとの混血も関係してると思う」

「え。ぼく、これから70億円、じゃなくて7,000万メニー稼げるってこと?」

「まあ、生涯年収の相場は“市場価値”の10パーセントくらい、って言われてるな」メントは一旦言葉を区切り、「でも、13歳でこの金額はオカシイ。あたしと3,000万メニーしか変わんないってやべーだろ!」


 メントは自分のことのように興奮し、破顔している。

 対照的に、キズナの顔は強張っていた。それもそうだろう。これから70億円もの大金を稼げます、とお偉方、要は政府よりお墨付きを得て、どういう感情でいれば良いのか分からないからだ。


「ね、ねえ。暗殺とか拷問されないよね?」

「されるわけないだろ! クレジットカードの利用可能額や、キャッシング枠が尋常じゃなく増えることはあるけどな!」


 メントは本当に自分のことのようにニコニコしていた。

 そりゃ政府が7,000万メニーの価値があると後ろ盾になってくれるわけだから、おカネには困らなくなるだろう。


「ふあぁ~。おはよ、ふたりとも」


 そんな中、パーラが現れた。彼女は暖炉の前にあるソファーに座り、目をこすり、数十秒ほどでまぶたを閉じる。


「パーラ、聞いてくれよ~! キズナの“評定金額”、7,000万メニーだってよ!」

「へー……。あー、この部屋やっぱり温かい」

「オマエ、さすが猫との獣娘なだけあるよ……」


 パーラの反応は薄かった。

 というか、彼女のことをあまり注視してこなかったので、いままで気が付かなかった。その金髪ロングヘアの女子大生へは、猫みたいな耳と尻尾が生えていることに。

 そして、ついに大きめのソファーの上で丸まり始めたパーラ。猫の血が入っているのならば、睡眠時間が長いのも頷ける。


「眠そうだね」

「パーラはいつもこんな感じだし、あと30分もすればめちゃくちゃ喜んでステーキでも焼いてくれるさ。さて、キズナ」

「なに?」

「今後の計画を練ってこうぜ! 7,000万メニーも値札つけられりゃ、たいていのことはできるしな!」

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