29 軽く凌駕され

「は」

「は」

「は?」


 パーラとメントは変顔かよってくらい、顔を曲げた。

 やがて数秒の沈黙を切り裂き、メントが言う。


「良いか、キズナ。連邦政府はオマエに死んでもらいたいらしいぞ……」

「第2の人生を手にしつつあるのに? それは嫌だな」

「気ぃ抜けた態度とれるのは、ある種の才能だな……。ともかく、そのセブン・スターズの討伐完了までの期限は……はぁ!?」


 メントは声を荒げ、目を見開いた。その大声に、キズナは耳を塞ぐ。


「3日以内!? 7,000万メニーしか評定金額かかってないガキに、3日以内で終わらせろ!? 頭オカシインじゃねえの!?」


 メントがそう大慌てする中、パーラは、「ちょっと、ここ座りなよ」と椅子を差し出してくる。彼女はまったく慌てていない様子だった。


「ねえ、キズナちゃん」

「うん」

「私にはさ、恋人がいるんだ。あの子とは年齢が離れてて、キズナちゃんと同じように転生者として、ロスト・エンジェルスへやってきた」

「それがどうかしたの? 同性愛なんて普通でしょ」

「だから、その、私の恋人を頼って欲しいんだ! ちょっと口悪いところあるから、キズナちゃんの精神的疲弊を考えて会わせてなかったけど、普通は会わせるべきだもんね!」

「頼る? その子強いの?」

「うん! つけられた値札は17億6,000万メニーだよ!!」


 キズナはらしくもなく、つばを飲み込んだ。パーラの一言を聞き、喉が砂漠のように枯れてしまったのだ。


「じゅ、17億メニー!?」


 異世界に来て、キズナは初めて驚いたかもしれない。やれ7,000万メニーだの1億メニーだの2億5,000万メニーだの、で計られてきた自分たちを軽く凌駕する存在が、パーラの恋人だったのだ。


「そうだよキズナちゃん! ルーちゃんはマジで強えんだから!!」


 そんなところへ、しばらくこちらの声も聞こえていないほど苛立ち叫んでいたメントが、ようやく落ち着きを取り戻し、椅子へ座る。


「ルーちゃん? ルーシのことだよな? パーラ」

「うん! このピンチ救えるの、ルーちゃん以外いなくね!?」

「まあ間違っちゃいないけどさぁ……アイツかぁ」

「大丈夫だよ、メントちゃん! もう裏社会から足洗ったって宣言してたし!」


 元裏社会の住民らしい。それなのにパーラより年下の少女? 化け物が女子の皮を被って大暴れしてきたということか?


「アイツ、嘘ばっかつくしなぁ」

「でも最近のルーちゃん変わったよ? 学校にも顔出すようになったし、タバコはついに電子に変えてくれた! あれもあれで臭いけどね!」

「うーむ。まあ、こうなっちゃうとキャメルやホープにすがっても仕方ないしなぁ」

「でしょ? いまからスピーカーで電話かけるね!」


 2コール目には、スマートフォンが反応した。


『もしもし。なにか困りごとか?』


 その声は、パーラより年下な少女にはまったく似合わない、ハスキーで落ち着いた声色だった。


「ルーちゃん! いまね、私たちの家に住ませてる子がいて、その子が──」

『裏社会からは足洗ったんだ。悪いが、殺すことはできないよ』

「そうじゃないよ! ルーちゃんは私たちをなんだと思ってるのさ!!」


 パーラは満面の笑みで、電話先の少女ルーシに言う。

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