25 もうすべて、どうでも良い
街中がカオスに陥る中、キズナはあたりをキョロキョロ見渡していた。
倒れた街路樹、めくれたアスファルト、どこかに飛んでいった赤い消火栓と、吹き出す水。ショーウィンドウは見るにも堪えない姿に変貌し、逃げ惑う市民たち。
そんなキズナのもとへ、アーテル・デビルがイブを抱っこしながら現れる。
「き、キズナちゃん、カイザ・マギア使えるの?」
「カイザ・マギアってなに? それよりも、街がめちゃくちゃに……いや、イブ先輩の意識が」
「い、イブさんはこれしきじゃ死なないよ。き、キズナちゃん、安心して」
「そもそもなにが起きたのか分かんない……。めちゃ疲れたし」
キズナは体力を使い果たし、倒れ込んで泥のように寝始めてしまった。あとのことなんて知るか、と言わんばかりに。
*
「ん」
ここはどこだ。お姫様が使いそうなベッドで目を覚ましたキズナの疑念は、すなわちそれだけだった。
「あ、あ。起きたっ! 良かった……」
隣にはアーテルがいた。普段通り、吃音気味な口調だった。
朦朧としているキズナは、されど左隣にもヒトがいると悟る。振り返り、そこへイブが寝転がっているのも知った。
「ここ、どこ?」
「わ、私の家です」
「あー、意識飛んで運ばれたのかな?」
「そうで、だよ。で、でも外傷とかはないから、大丈夫なはず」
「なにがどう大丈夫なんだよ。街中であんな大騒ぎ起こして」
そう吐き捨てた。
アーテルの表情が曇る。というか、半分涙目になっていた。失言してしまった、とキズナは口を塞ぐがもう遅い。
「あー、ごめんね。考えてみりゃ、仕掛けてきたのはイブ先輩だったもんね」
アーテルはなおも泣いている。これでは話にはならない、とキズナはおもむろに立ち上がり、身体がしっかり動くことを確認した。
「なんというかさ、アーテル先輩」
「……、うん」涙声だ。
「ぼくも軽率だったよ。カイザ・マギアってあれでしょ? 他人から魔力を奪い、服従させるっていう皇帝の魔法でしょ? あんなのを白昼堂々ぶっ放すのもどうかしてたね。だからまあ、お互い様ってことで」
カイザ・マギア。
魔力を一時的に膨張させることで、萎縮した者から魔の力をすべて奪い取る魔術である。それを抜き取られた者は、奪ってきた者の意のままに操れるという。
ただ、この魔術は危険性が高すぎるため、限られた者しか使うことができない。
また、皇帝の魔法というからには、高い素養を持っていなければ、やはり使うことはできないのである。
「で、でも、キズナちゃん」ようやく泣き止んだアーテルは、「魔術師ライセンスを持ってないキズナちゃんがあれ使ったことがバレたら、た、逮捕されちゃうよっ?」と顔を青ざめてきた。
「え、ぼく逮捕されるの?」
思わず自分自身を指さした。
あんなのは事故みたいなものなのに、それで豚箱行きなんて嫌過ぎる。
とかふたりが硬直し混乱する中、キズナに魔力を抜かれたイブが目を覚ました。
「ああ……。キズナに、アーテル」
「い、イブさ……ちゃん?」
「なんというか、才能の差を見せつけられたような気がするわ。貴方にも、キズナにも」
イブは意気消沈としていた。最前、男に絡まれたときやアーテルと闘っていたときの強気な態度が嘘のように。
そしてイブは立ち上がり、ふらふらとこの場から立ち去ろうとした。
が、魔力を抜かれたばかりの彼女では帰宅することもかなわない。すぐカーペットの上に倒れ込んでしまった。
「い、イブちゃん。だ、大丈夫?」アーテルが駆けつける。
「良いのよ。もう、すべてが」
どうやら本当に消沈してしまったようだ。仕方がないので、キズナも立ち上がり、イブのもとへゆっくり向かっていく。
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更新途絶えていて申し訳ありません。こちらの作品もじっくりやっていこうと思っております。
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