第19話 野球好きの日本人の温かい励まし

 雨は降ったりやんだりだったが、グランドへ行くことにした。すると日本人選手の皆さんは全員がそろって、水抜きとグランド整備をしてくれていた。その意気に感じて練習試合を強行したが選手たちのやる気が半減していたために、その内容は惨憺たるものであった。

 試合後、これが大会前最後の機会になるので、日本人選手の方々から一言ずつ温かいメッセージ激励の言葉をいただいた。大学時代、ピッチャーで大手商社の責任者として赴任されている諏訪さん、タイ在住の赤山さんから心の温まる言葉をいただいた。

 日本人の方々の中は、タイの中学生世代の子どもたちが野球をやっていることに感動を覚えた人がほとんどだったが、アジア3強と真剣勝負を目前にした真にとってはあまりにも不甲斐なく納得できない内容だったので、練習を続行した。選手たちは帰るとばかり思っていたのか不満そうな顔をしていた。

 そんな雰囲気を感じとった真は練習前に選手たちの前に立ち、練習試合をふり返った。「最後の攻撃はよかったと思う。ウイッのライト前ヒットは気持ちで運んだヒットだった。最初から最後まで、一番声を出していたのはロットだが、他の者は全然声を出していなかったじゃないか。ピッチャーは1人で頑張っているのに、誰も声をかけない。

 つまりバラバラなんだ。1人1人がバラバラで、フィリピンにだって勝てない。なぜなら向こうはチームだからだ。しかしうちはチームとは言えない。チームで戦うのだからピッチャーを1人で投げさせてはいけない。18名全員で投げるのだ。もっといい声で盛り立てて褒めてあげるんだ。」と伝えた。

 そして2チームに分けて、紅白戦を行った。少しは気持ちが伝わったのだろう。選手たちは元気いっぱいにやったこと、懸案事項だった上位3チームに対しても勝負をするという選手たちの総意も確認できたため、3回で終了させて合宿所に戻ったのである。

 子どもたちと寝起きを共にしながら育成する。これこそ理想的な育成方法だ。1ヵ月以上、彼らと寝起きを共にしての合宿を通じて、選手1人1人の特性もわかってきた。練習の中でいろんなことを試してみると、隠れた才能を見いだすこともあった。

 足が速いヨーッ、守りは苦手で足は遅いが1発が期待できるローサン、それぞれに合ったアドバイスをしていった。バッティングピッチャーで投げさせてみると、ペーンがいい球を投げることがわかった。最終確認をするためにスパーンブリーの体育学校に練習試合を組んでもらい、投げさせてみることにした。

 結果的には、第1試合ペーンの先発は16対10で敗戦、第2試合はエースのジーの先発で9対9の同点であった。第1試合に負け、第2試合も9対1と負けていたが、5回にビッグイニングを作り同点に追いついた。

 この追い上げがなければ、内容の不十分さを引きずったまま大会に突入しなければならなかったと思う。冷静に思い返してみると、1ヵ月前に比べると明らかに成長をしてくれた選手たちの姿に、真は内心手ごたえを感じていた。

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