第23話 台湾戦とフィリピン戦
次の日の対戦相手は、これまた強豪の台湾との一戦であった。この試合は、真を心から感動させるものとなった。実力差は大人と子供のような差があったにもかかわらず、相手の強力打線を6点に抑え込んだ。
先発のチャイヤーは、ピッチャー経験も少ない中で、物怖じせずに堂々としたピッチングを披露した。大きな体からくり出すあまりにも遅いボールに手こずったのが真実だと思うが、彼はストライク先行のピッチングで勝負に挑んだのである。
ピッチャーのリズムがいいと、守りのリズムも良くなるものだ。特に、ショートのゲッターにたくさんのゴロが飛んだが、終始攻撃的な守備を見せ何とノーエラーでピッチャーとチーム全体を盛り立ててくれた。バッティングでも彼はセンターへ痛烈なヒットを放ったのである。
2時間という時間制限があったために、6回時間切れとなってしまったが、終始全員が全力で声を出し続け、6対0という好ゲームを演じてくれたのである。この夜は、ノーエラーに痛烈なヒットを放ったゲッターをMVPに選出して新品のソックスをプレゼントした。
6月19日(月)は、ライバルであるフィリピンとの試合であった。この日は、いつものように早朝からジョギングをした後、全力で素振りの練習、午前中の割り当て練習もきっちりやりきって、午後からの試合にのぞんだ。これが試合の明暗をわけたのであった。
試合前の選手たちの様子を見ると、健気なまでに戦う意思を見せていたが、疲労の色は隠せなかった。さらに声を出そうとしても、昨日の試合でほとんどの選手たちの声はつぶれていた。選手のベストパフォーマンスを出させるために、緊張の糸をほぐしてあげることが指導者に求められていたのにしてあげられなかったことが真にとって最大の反省材料となった。
先発ピッチャーのジーは勝たなければならないプレッシャーのため緊張していたのだろう。序盤で打ち込まれ、早めにトーンにスイッチしたが、攻撃も守備面も悪い流れは止められず、終わって見ると11対2の敗戦となった。
真は、全身の力が抜けた。必勝を期し最大のポイントにしてきたフィリピン戦の敗退である。冷静になって振り返れば、相手はのびのびと戦っていた。午前中の練習も全てキャンセルして、この試合にのぞんでいた。こちらは、緊張の糸を最大限に引っ張ったまま、試合にのぞませてしまった。敗戦の一切の責任は真にあったと言ってよい。
この敗戦の責任はきちんととらなければいけない。明日の試合はインド戦である。この試合で真はヘッドコーチから身を引き、スタンドで観戦することに決めた。このやり方には選手や監督、コーチたちを戸惑わせたことだろう。
しかし、真にとってのこの敗戦は、絶対に受け入れることのできない事実でありその責任は全て自分にあること、本音を言えば本当に腰が砕けてしまったような無力感に陥ってしまったことも事実である。インドとの実力差は間違いなくタイの方が上と分析していた真は、どんな形になっても最後は勝つことを信じていたからでもあった。
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