第22話 タイチームが戦う集団に
試合終了後、情けなさと悔しさに満ちた真は、主催者の韓国が用意してくれていた市内観光などのスケジュールを全てキャンセルし、「これから練習をするのでグラウンドへ連れていってもらいたい」とタイのスタッフ「しんちゃん」にお願いした。真の何とも言えない恐ろしい雰囲気に圧倒されたしんちゃんはすぐに対応してグランドを探してくれたようだが、結局見つからなかったことを真に伝えてきた。
そこで真は「それではこのままホテルに直行してもらいたい」と伝えると、しんちゃんは「せっかくの市内観光が・・・」とぶつぶつと喋りながらうなだれ、しぶしぶ全てをキャンセルしてホテルへ送ってくれた。
ホテルに到着すると、裏にある土手に選手たちを連れていった真は、選手全員を並べて話しはじめた。「今日の試合で、自分の実力を出せた者はいるか。勝敗は関係ない。せっかく1ヶ月以上も朝から晩まで練習してきたのに、なんだあのざまは!もう2度とあんな試合をしないために、この土手の階段を、大声をだしてから走れ!私がいいというまで走れ!」と。
裏の土手とは言え、ソウルの中心街が近く、多くの市民が土手の上を歩いていた。選手たちは恥ずかしかったのだと思う。中途半端な声しか出さずに、遠慮がちにやっていた。その姿を見てこんなことでは意味がないと判断した。
そこで真は「ドリャ―――!」と町中に響き渡るような大声を出し、全速力で坂道を登り、坂の上に仁王立ちし「こうやってやるんだ!」とやり方を見せて、選手たちに同じようにやるよう促した。そのあまりにも大きな声に驚いた通行人は、足早にそこから立ち去り、誰も近寄らなくなった。そうして選手たちには、やりやすい環境が整った。
最初に、責任感の強いキャプテンのオーンが大きな声を出して走り出した。勇気ある行動はあっという間に広がっていくものだ。次々と選手たちが続き、夕闇迫るソウルの街に、彼らの大きな叫び声が響き渡ったのである。そろそろみんなの声も出てきたので、止めるように指示をすると、逆に選手たちは「もう少しやらせて」と言ってきた。汗をびっしょりかき、目が輝いてきたのがわかった。
オーンを呼び選手たちを集合させ「明日はこうやって元気いっぱいに自分たちの野球をやろう」と確認しホテルに戻った。この日は誰に言われることなく、9時前には全員が静かな眠りについていた。
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