第14話 ナショナルチームのポーンがコーチに
2月7日(月)、タイのナショナルチームに所属していたポーンが、ここナコンシータマラートへやってきた。真は兼ねてから、今後の野球の普及を考えた時に、コーチの育成も必要不可欠なことで、子供たちを指導して行けるように一緒に子どもたちへ指導することを通じて、指導者の育成を図ろうと考えていた。
ナコンシータマラート県へいくにあたり、野球連盟に適任者はいないか探してもらっていた。南部のパンガー県出身のポーンが興味を示していると聞いて、できるだけ早く来るように伝えていたのであった。まだ20代という若い彼は、野球指導を託すのに適任者であった。
スパーンブリーとは違い、全くの素人でうまく指導ができていない面があったので、真は彼の来校を心から歓迎した。ここから彼と2人3脚での指導がはじまった。とはいうものの遅刻してくる生徒が多くて、何度も叱ってはしっかりやるように促していたのだが、そのモチベーションの低さも当然のことが明らかになってきた。
野球など全く認知度の低いスポーツの普及のために日本から野球のコーチが来ることになり、急遽、頭数を揃えなければならなかったために、他のスポーツの中でも、練習への取組も評価も低い生徒たちが彼らの意思に関係なく集められたようである。
それを知った真は、これではここで野球の指導を続けていくことは難しいと校長先生に訴えた。すると校長先生は、男子バレー部の生徒全員を野球部に呼んでくれた。校長先生も覚悟を決めてくれたのであろう。バレーの選手としては小ぶりだった生徒たちを、野球という新しいスポーツに鞍替えさせたのである。
真は来てくれた彼らに「面白くなかったら、バレーボールに戻ってもいいよ。だけどきっと野球の方が面白くなるよ」こう伝えて練習をさせた。もともとバネがあり肩の強い彼らである。めきめきと力をつけていった。
真の思いは強かった。全く野球に対する認知度の低い困難な状況にあっても、タイの地に野球を広めるという強い思いは、益々燃え上がっていった。バレーボール部以外の生徒たちは辞めることになり、今後の野球部の存続のために、野球専門の生徒を募集してくれるようお願いすると校長先生はその要望に応えて、来年は募集してくれることになった。
サッカーや陸上は大所帯だったが、野球部には10名の新入生が入ってくることになった。ウィラサック校長には感謝の思いでいっぱいだった。真はしばらくここで、腰を据えて野球の指導をしていこうと誓った。
時を同じくしてアジア野球連盟は、第1回の中学生の国際大会を韓国で開催するために、タイにも参加を要請してきたようだ。そこでまだ体制も十分ではなかった状況であったがタイ野球連盟は、参加することを決定したのである。4月にタイ全土から候補者を選考する。
そして5月から合宿に入り、6月に韓国で開催されるAA(ダブルエー・中学生世代)大会に参加することになったのだ。急展開ではあったが、少しずつ動きが出てきた。子供たちへ少しずつ野球が普及し始めると、その動きに応じてギアがかみ合ったように、何かが確実に動き出したのであった。
ナコンシータマラート県での指導にも力が入ってきた。そこで、やはり彼らにとってゲームをさせてあげることが一番の近道と考えた真は、スパーンブリー県体育学校との練習試合を企画した。ウィラサック校長も快諾してくださり、3月18日(土)、朝5時にバスで出発し、夕方4時頃スパーンブリー県に到着した。
その日は、インターナショナルスクールとスパーンブリー体育学校の練習試合があったので、スパーンブリー県到着後まずは試合を全員で見学した。結果はスパーンブリー体育学校が15対2という大差で勝利したのである。半年前、日本人学校と練習試合をやった時から比べると、明らかに成長していた。真は子供たちの成長した姿に手ごたえを感じたのである。
次の日は、いよいよナコンシータマラート県体育学校との練習試合であった。結果は30点まではわかったが、途中から点数を数えられないくらい圧倒される試合であった。しかし、終わった後に本気で悔しがるナコンシータマラート県体育学校の生徒たちを見ていて、彼らは間違いなく変わることを確信した。真が今までも何度も子供たちに課してきた、避けては通れない成長へのプロセスだったからである。
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