第37話 第1回「タイの甲子園大会」はじまる

 11月23日(木)歴史的な第1回中高生野球大会に向けた審判講習会からスタートした。全国の野球、ソフトボールの審判経験者が参加しての本格的な講習会である。前半は球場で実技の講習、午後からは室内に入って講義形式で、ルールの説明を行った。真はどちらにも参加したが、特にルール説明の際、日本から派遣された小岳さんの日本語による説明をタイ語で通訳しながら進めた。

 ストライクゾーンについて説明している時、膝の皿を基準にすることを説明するのに、膝の皿とはタイ語で何というのかわからなかったので、説明する時には「ここ」という言葉を多く使った。この時、正しい言葉で説明するには、言語の深い理解が大前提になることを痛感した。

 さていよいよ24日(金)から総当たり戦による試合が始まった。最終的には中学校5校、コンケーン中学校、日本人学校、インターナショナルスクールに、ラパチャ専門学校、ナコンシータンマラート県体育学校、高校生のチームも5校、スパーンブリー県体育学校、コンケーン県のチーム、ラームカムヘン大学、ラパチャ専門学校、インターナショナルスクールが参加した。

 多くのタイの方々が見にきていた。最初、真に話しかけていくる人達は「タイチームは日本人には勝てないよね。タイでは野球は難しいスポーツだよ」と言っていた人たちがほとんどであった。しかし真は「タイチームが必ず勝ちますよ」と確信を持って応えると、タイの人たちは笑って「無理、無理」と話していた。

 試合は1日1試合、25日(土)だけは2試合というスケジュールであった。ナコンシータンマラート県体育学校は、初日にコンケーン中学生と対戦し大差で勝利を納めた。ここの指導者は、6月に参加した中学生の国際大会の時に、コーチとして一緒に戦ってきたタイ国内での数少ない野球チームを支える大切な仲間の一人である。

 国際大会の後も、地元のコンケーンで地道に子どもたちに野球を伝えてきた中学校の先生であった。試合終了後、お互いの健闘をたたえ丁寧に挨拶を交わした。ナコンシータンマラートの子どもたちにも、イサーンの地で誰もやっていないような野球というスポーツを地道に続けてきた彼らに賛辞を送り理解してもらった。

 この日の試合の終了後のミーティングで真は、MVPを一人選んで表彰した。それは小柄で物静かな1年生のエである。彼はレギュラーメンバーではない。そこでエがこの試合で最も活躍した理由を真は子どとたち全員に丁寧に説明した。

 エは、初回からバットボーイを務めてくれた。それも日中の30度をはるかに超える暑い中、ただただ黙々と、1回1回のバットを片付けるために、全力疾走で取りに行き、全力疾走でベンチに戻ってくる役割を誠実に果たしてくれたからである。

 試合に出ている選手は、様々な形で支えてくれている仲間をリスペクトすることの大切さもつけ加えた。こう説明を終えた時に、全員が納得し心からエに対して賞賛の拍手を送った。勝ち負けだけではなく、野球を通して人として成長していくことが最も大切なことをあらためて確認することができた。

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