第38話 歴史的な試合の舞台は整った
第2日目の相手はラップラチャーである。基礎基本からみっちりと叩き込まれてきたナコンシータンマラート県体育学校のメンバーは、自信満々のプレーで圧勝した。タイ人同士の戦いを終えて観客の一人が真に話しかけてきた。 「タイ人のチームには勝てても、インターナショナルスクールや日本人学校には勝てないよね」真はその話に「そう思うことはわかならなくもないけど、ナコンシータンマラート県体育学校とスパーンブリー県体育学校が必ず勝ちますよ」と答えると、「随分と自信があるようだね。それはなぜですか」と聞いてきた。
真は「何ごとも基礎基本が大切です。彼らはここまで私が魂を込めて基礎基本をきっちりと教えてきたのです。だから彼らの実力は本物です。今日と明日の試合を楽しみにしていてください」と丁寧に説明した。
この試合のMVPはエー。バレーボールから野球に転向して、最初はバレーボールに未練があったため、何度か真とぶつかったこともあった。しかし、もともと運動能力が高く、興味のあることに対しては、真剣に取り組む彼は、メキメキと上達し、今日の試合では3打席全てヒットで出塁する活躍を見せてくれた。MVPを発表した時、彼は誇らしげに真の話を受け止めた。
この日はダブルヘッダーで第2試合はインターナショナルスクールとの対戦。アメリカ人をはじめ明らかに強そうな相手ではあったが、ここにも大差で勝利をおさめたのである。観客たちは少しずつ真の自信に満ち溢れたコメントに信頼を寄せるようになってきていた。試合終了に「明日は最後、日本人学校に勝ってください」と揃って声をかけてくれた。
この試合のMVPは2試合ともキャッチャーとして、試合にフル出場し続けたジョームを選出した。彼は2試合、内野ゴロのファーストへのベースカバーを一度も欠かすことなく、全力疾走でやり続けたこと、それから最終回に難しいキャッチャーフライに猛烈に走って反応し、飛びついて泥だらけになって捕球し相手の攻撃力を食い止め勝利を確実にしたプレーに対して心から賛嘆し、3試合を終えたのであった。
さていよいよ残すところ日本人学校との試合だけとなった。思い起こすと、昨年、スパーンブリー県体育学校が初めて野球の練習試合で対戦した時、大差で負けている。ただ日本人学校のお母さんたちからは、元気はつらつとプレーをしていたスパーンブリーの子どもたちの姿勢を褒めていただいた。
2回目は、中学生の代表チームが練習試合の相手として4対2で惜敗した時である。今回は3回目の対戦となり、真にとって今までの借りをきっちりと返すことを深く心に期して挑んだ試合であった。青年海外協力隊のメンバーはタイ全土で様々な立場や職種で、タイの人たちに貢献するため活動をしていたが、何人かのメンバーに今日は日本人学校に勝つ試合を是非とも見にきて欲しいとメールで知らせていた。
日本野球連盟事務局長の前田さんやタイアマチュア野球連盟の設立を後押しした柏原さんも試合を見にきていた。試合前お2人から「今日の試合はどうですか」と聞かれたので、「今回は私にとって日本人学校とは3回目の対戦となります。今までお世話になったことへの感謝の気持ちを伝えるためにも必ず勝ちます」と伝えて試合が始まった。
真の中には、前述したWBCの栗山監督の言葉どおり、全て勝利からの逆算が出来上がっていた。負ける要素が全くないと自信を持っていられたのである。今、教えられること全てを練習の中で伝えきることができていたからであった。青年海外協力隊のメンバーも観戦に来てくれて歴史の舞台は完全に整ったのである。
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