第27話 真の言葉を代弁するコーチとともに
熱帯という気候が大きく影響していることかもしれないし、タイの人たちのサバーイ・サバーイ(気持ちいい、心地よいの意味)な気質かもしれないが、時間を守る感覚は季節に寒い冬がある日本人に比べると、とぼしい人が多いと感じてきた。中学生の代表チームと合宿で国際大会に向けて練習をしていた時も何度か選手たちとぶつかったことがあった。
何も言わずに放っておくと、練習に遅刻してくる子どもたちがじわじわと増えてくる。練習にのぞむ姿勢について真は、子どもたちに何度も語ってきたつもりであるが、遅刻者が増えて、真が厳しい対応をして緊張感を持たせることを繰り返してここまできたと思う。真が厳しい話を子どもたちにしようとしたある日のミーティングでのこと、コーチのポーンが真を制止して話をはじめた。
「練習を試合のように、試合を練習のようにと真はいつも話してくれていて、毎日の練習が最も大切なことはわかっているはずだ。だから練習に対していつも心を鬼にして厳しい姿勢で臨んでくれている。その理由は、君たちは僕をこえて外国のチームと戦って勝つことできる日を信じているからだ」いつの間にか真の伝えたかったことを余すことなく代弁していた。
「自分はタイのナショナルチームに選ばれたが、国際大会に出場して自分があまりにも実力がないことを嫌というほど痛感した。タイの野球の未来を考えると、子どもたちに野球を広めなければ、タイにおける野球の発展はない。そのために、日本での仕事も家族もそっちのけで、タイの子どもたちのために野球を広めたいという真を少しでもサポートしたいと思ってここに来てサポートしてきたんだ」
さらにポーンは「体育学校を卒業した自分は、22歳から野球をはじめた。君たちと同じように若い時からはじめられれば、きっと今以上に上手になっていただろう」とそれ以外にも自分をさらけ出した本音トークで子どもたちに真剣勝負で話を続けていた。
「同じアジアの日本に学ぶのだ。体つきも違うアメリカのマネはできないと思う。真は今まできたコーチの中で最高のコーチである。そんなコーチに若いうちから学ぶことができる君たちは幸せ者だ」と、自分に対してはもったいない評価した話をするポーンを心から愛おしく思ったのだ。次の日から、子どもたちの取り組む姿勢が変わったことは言うまでもない。
若いコーチであるポーンと子どもたちと一緒に野球ができることにあらためて感謝と喜びを感じる真であった。次の日の早朝練習には全員が遅刻せずに集合し、地道なトレーニングに汗を流した。
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