第4話 ターゲットは子どもたち

 最初の大きな活動を終えた真には、タイにおける野球の普及活動は、子どもたちをターゲットにしなければならないことが明白になった。タイに戻ってきた真の活動の準備をしてくれたのは、タイ野球連盟のチャイワット事務局長である。彼も真の考え方に賛同してくれて、すでに行き先を決めてくれていた。

 そこはスパーブリ県にある体育学校で、小学校から高校生まで併設され、国内のスポーツ普及の中心的な役割を担っていた。ここの校長先生は、日本への留学経験もあり、野球にも理解を示してくれる素晴らしい人格者であった。

 ここに男女のソフトボールチームがあるのだが、男子に対して野球の指導をして行くことになった。子どもたちと最初に出会った時のあのかわいらしく人懐っこい笑顔が、真を温かい気持ちで包んでくれたのと同時に、この子たちに野球のおもしろさを伝えたいと言うと強い気持ちが芽生えた。

 タイでは老若男女を問わずサッカーが最も人気のあるスポーツであり、プロリーグもある。足を使うスポーツが主流なので、夕方になると狭い敷地でもサッカーをやる姿をみかける。

 真が小さな頃、日本では放課後どこでも野球をやっていたものである。真の住む北海道オホーツク海側にある家の近くの空き地でも、日が暮れるまで野球をやっていた。日本での野球に代わるものがタイではサッカーなのだろう。

 国によって地域性、国民性、歴史的な背景が違うので、タイにおけるサッカーの認知度の高さは理解しなければならない。さらにもう少しタイのスポーツ事情に目を向けておきたい。

 サッカーは広い場所が必要だが、これに対して狭い場所でもできるスポーツ「セパタクロー」が有名である。「セパタクロー」は、マレーシアとタイの競技が融合してできたと言われている。東南アジアの人気スポーツの1つで、3対3で中央のネットを挟んで行う。

 ルールはバレーボールに似ている。つまり足を使ってバレーボールをやるようなもので、日本人にとっては難しいと感じるが、タイの人たちは簡単そうにやっている。サーブは何とかできるかもしれないが、レシーブしてトスをあげてスパイクを打つのである。

 スパイクはオーバーヘッドキックである。それをブロックしたり、レシーブをしたりと、最初はアクロバットでも見ているかのようであった。夕方、体育学校の先生方に誘われて、遊びとは言え何度かパス練習をやってみたが、やはりとんでもなく難しいものであった。

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