第15話 なんだァ? てめェ……
「にゃー」
「うにゃー」
「なーぅ」
猫、かわええ……!
フワフワでモチモチでポカポカで。
どこを触っても可愛くて、どこを見ても可愛い。可愛いしかない。
……あれ?
私、ついさっきまで何か悩んでたような……?
うーん、思い出せない。何だったかなぁ。
「…………はっ!?」
そうだ、思い出した!
何を猫にかまけて和んでるのさ! 今日は新から意識してもらうためのデートじゃん!
「ははっ、可愛いなぁ。何だよ、おやつはないぞ?」
「……」
ふと、新の方へ視線を向けた。
彼の膝の上には、白く小綺麗な猫が一匹。
くるりと丸まって、心地よさそうに喉を鳴らす。
……か、可愛いって言われてる。
私だってまだ言われてないのに……!
「新……どうしたの、その子」
「勝手に乗って来たんだよ。来栖、おやつで釣ってどかしてくれ。膝が痺れてきた」
……言われるまでもなく。
猫は可愛い、それは間違いない。
しかし、私よりも先に可愛いと言われた罪は重いぞ。
ほれ、おやつだ! さっさとそこをどけ!
「あれ、食べないな。ちょっと俺に貸してくれ」
私が口元に近づけると、白猫はふいっとそっぽを向いてしまった。
仕方なく、新にバトンタッチ。
すると今度は、先ほどのリアクションが嘘のようにおやつにがっつく。
「何だよお前、来栖は嫌だったのか?」
「なーぅ」
「そかそか。ははっ、懐かれちゃったなぁー」
「うにゃー」
困ったように笑って、白猫を撫でて可愛がる。
当の白猫は、気持ちよさそうに頭を擦り付けて目を細めた。
そして、チラリと私を見て、心なしか僅かに口角を上げる。
羨ましいだろ、と言いたげに。
……は?
なんだァ? てめェ……。
「にゃーにゃー」
「わかったわかった、撫でてやるから。可愛いやつだな」
「……」
「なぁーぅ、あぅーん」
「ここが好きなのか? 本当に可愛いなぁー」
「……」
落ち着け。相手は猫だぞ。
――と自分に言い聞かせるが、一度着火した嫉妬の炎は中々どうして鎮火しない。
私だって……私だって今日は、いっぱい可愛くしてきたのに!!
可愛い可愛いって、何だってあの猫ばっかり……!!
うぅ!! くそぉ~~~!!
そんなに猫がいいってのかよぉ〜〜〜!!
だったらわかったよ! こっちにだって、考えがあるんだからな!
よ、よーし……やってやる、やってやるぜ!!
あの毛玉に、人間様の戦い方ってやつを見せてやる!!
「わ、私も……」
ちょいちょいと、新の袖を引く。
そして、どうにかこうにか口角を上げ、全力で笑みを作る。
「可愛がって……ほ、欲しい、にゃん♪」
どうだ、あざと可愛いだろ!!
顔がいい私にこんなことされたら、絶対ドキッてしちゃうだろ!!
男ってこういうの、絶対に好きだろ!?
はぁー……まずい、羞恥心が遅れてやってきた。
こういうの、私のキャラじゃないし。は、早く……早く、何かリアクションして。
黙ってないで、可愛いって言って!
「お前、どっかで頭打ったのか……?」
「……」
恥ずかしさと情けなさが胸の中で混ざり合い、大爆発を起こし。
気がつくと私は、猫カフェを飛び出していた。
◆
「……何なんだ、あいつ?」
ドタドタと猫カフェから出て行った来栖。
わけがわからないが、きっとトイレだろう。
スマホも荷物も何もかも置いて、一人でどこかへ行くわけがない。
ましてあいつは、一見完璧なように見えて実は方向音痴。このあたりの地理もないし、スマホの地図もなく外を出歩けば間違いなく迷子になる。しかもこの天気、いつ降り出してもおかしくない。
そもそも、二人で出掛けてるのにそれを投げ出して迷子とかあり得るか?
……ふっ、ないない。
そんな超ド級のアホが、俺の親友なわけあるか。
「なぁーう」
「はいはい、今撫でてやるからな」
あー、猫って可愛いなぁー。
◆
猫カフェを飛び出して。
走って、走って、走りまくって。
「ここ、どこぉ……? 新ぁ……!」
私は迷子になっていた。
――――――――――――――――――
今回、ちょっと短めです。
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