第6話 ざっけんじゃねえ!!
メチャクチャまずいことになった。
「折村くん、昨日のニュース見たよ! すごいね!」
「腕見せて! 腹筋触らせてーっ!」
「うわすっご!! おほぉ……何か、ドキドキしてきた……!」
昨日の一件が報道された。
新の名前は出なかったが、私たちに近い人間ならその高校生が彼だというのは明白だ。
それがきっかけで、新の株価が大暴騰。
魅力値という名の火薬庫が爆発し、今まで私に集中していた人気を全て掻っ攫ってしまった。
「あの、俺、そろそろ昼飯を――」
「ほんとだ、やばっ! 折村くん、ちょー鍛えてるんだね!」
「それはいいけど、もう昼休みだし――」
「お姫様抱っことかできる? やってやってー!」
「あぁ……えーっと……――」
カッコいい王子を救った、カッコいい折村くん。
そりゃあ女の子からしたら、さぞ魅力的だろう。
くそぉー……!!
ううぅーーーーーーー!!
私のなのに! 私だけの新なのに!
ギリギリと奥歯を噛み締め、拳を握り、鼻息を漏らす。
暴れたい衝動に駆られるが、大きく深呼吸して我慢する。
……文句を言っちゃいけない。
そもそも私に独占する権利はないし、命を懸けて頑張ってくれたのは事実なのだから、チヤホヤの一つくらいされて当然だろう。それくらいのご褒美がなくちゃ割に合わない。
「……ご飯、食べちゃお」
私は小さく独り言ちて、そっと席を立つ。
いつもは新と二人で食べてたけど、今日は厳しそうだな。新はあの子たちと食べるだろうし……。
「ごめん。お姫様抱っこは、天城以外にはできないんだ」
「っ!?」
突然、新は私の肩をポンと叩いてそう言った。
教室内に響く、キャーッという女の子たちの黄色い悲鳴。
私は斜め後方を見上げて、息を飲む。
あまりにも恥ずかしくて、それでいて嬉しいその言葉。
ちょうど昨日、動けなかった私をお姫様抱っこでマンションの外まで送り届けてくれたことを思い出し顔が熱を持つ。
「……な、何いきなり? 私のご機嫌取り?」
「は? いや、当然のこと言っただけだぞ?」
「当然の、こと……」
「俺は天城以外に、そんなことしないよ」
そう言って、ニコリと笑う新。
ぐっ……ぐはぁっ!!
何だこいつ、何なんだこいつぅ!?
そこまでして私の好感度を上げたいのか!!
もうカンストしてるよ!! 天井ぶち抜いて月にぶっ刺さってるよ!!
あーーーもぉーーー!!
好き!! 大好きーーー!!!!
「だって、親友のお前だったら、触っても変な気分になったりしないし」
「…………」
教室はシンと静まり返り、私の心臓も鼓動をやめた。
酷く冷め切った手で彼のネクタイを掴み、思い切り引き寄せて、
「ふがっ!?」
鼻先目掛け、頭突きをくらわせた。
◆
「痛っ……!! お、おい天城! いきなり何だよ!?」
俺に頭突きをくらわせ、彼女はスタスタを教室を出て行った。
まったくもって意味がわからない。性的な目で見られたくないとか何とか、結構前に言ってただろ。
「お、折村くん……」
先ほどまで俺の周りではしゃいでいた女子の一人が、気まずそうに眉を寄せながら言った。
「……今のはちょっと、どうかと思うよ……?」
「え? 俺が悪いのか?」
「そっかー……薄々そうだとは思ってたけど、王子ってやっぱりそうだったのかぁ……」
「そうって何だよ。天城が何なんだ!?」
「折村くんはもう一発くらい殴られといた方がいいと思う」
「だから何でだよ!?」
ダメだ。まるで話が通じない。
仕方なく男子たちへ視線を向けたが、
「「「…………」」」
「え……あの……」
「「「…………」」」
「せ、せめて喋ってくれ。メチャクチャ怖いから」
「「「
「…………」
足並みの揃った身の毛もよだつ罵倒に、俺は冷たい汗を流した。
◆
「はぁー……」
階段の踊り場。
壁に手をついて、大きなため息をついた。
暴力はダメでしょ、暴力はさぁ……。
新の発言に欠片のデリカシーもなかったのは事実だけど、頭突きはまずいよ……。
「あとで謝っとこ……」
そう独り言ちて、もう一度嘆息する。
さっきの新の発言、彼が鈍く配慮に欠ける男なのはもちろんだが、おそらく半分は私のせいだ。
ストーカーの件を始め、私はこれまで多くの性絡みの被害を受けてきた。
そのたび愚痴を聞いてくれたのは彼で、対処してくれたのも彼。その経験のせいで、私をそういう目で見ないよう学習してしまったのだろう。
……ってことは、昨日はどのみち上手くいかなかったのかな。
仮にストーカーがいなくて、媚薬も上手いこと盛れていたとしても、新は鋼の気合で我慢していた気がする。
あぁ……まずいよぉ、これちょーまずいよぉ……!!
妹のことは可愛い、天使とまで言うのに、私は異性とすら思われていない。
そもそも、戦いの土俵にすら立てていない。
「…………」
このままじゃ、ぽっと出の女に盗られる。
株が上がった今なら、学校の誰かと付き合うことだって十分にあり得る。
私はそれを、ただ指をくわえて見ているだけ。
……嫌だ。
そんなの、嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
絶対に、嫌だ――ッ!!
「……決めたっ」
ぽつりとこぼして、力強く拳を握る。
最初から媚薬なんて飛び道具に頼った、私が間違っていた。
私の武器は何だ?
私が他よりも優れているよりは何だ?
そう、顔だ!! 私は可愛い!!
スタイルだっていい!!
金もある!!
「わぁっ、王子だ……!」
「珍しい、王子が笑ってるっ」
「マジ尊いわぁー。あんなカッコいい顔で、何考えてるんだろ……?」
ふ、ふふふっ……!
親友のお前だったら、触っても変な気分になったりしないだぁ!?
ざっけんじゃねえ!!
――見てろよ、新。
絶対に私を、えっちな目で見させてやるからな。
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