第9話 誰よりもカッコいい親友を舐めるなよ


「はぁー、美味かったーっ!」


 季節の野菜や魚、高級なお肉。

 一般人では中々手の届かない料理がひっきりなしに運ばれてきて、どうにか全て胃袋に詰めた。


 宿は当然、風呂も言うことなく、料理までこのクオリティ。

 これが上流階級の使う旅館か。何から何まで常識外れだ。


「ありがとう、天城。最高の週末だよ」

「そ、そう? それなら……よ、よかった」


 隣の天城に礼を言うと、彼女はどこか挙動不審に返答した。


 露天風呂を出てからこの調子。


 表情は変わらない。

 ただ何かを隠しているような、焦っているような、そんな雰囲気を感じる。

 

「どうしたんだ? 何かお前、ずっと変だぞ?」

「気のせいだよ。……それより新、このあとどうする?」

「せっかくだから外の庭園歩いて腹ごなしして、寝る前に大浴場に行きたいなって思ってる」


 この旅館の裏手には森が広がっており、そこも丸々旅館の持ち物らしい。

 そこには宿泊客専用の散歩道があり、四季折々の自然を楽しめるのだとか。

 緑を見て風情に浸る年齢ではないが、胃袋もパンパンなのでいくらか身体を動かして落ち着けておきたい。


「散歩、天城も一緒にどうだ? せっかくだしさ」

「いや、わ、私はいいかな……」

「そっか。なら、俺も部屋にいるよ」

「……えっ? な、何で?」

「だって、ストーカーの件で一人が不安とか言ってたし。それにどうせ二人で来たなら、二人で楽しめることした方がいいだろ」


 不安なのは風呂だけかもしれないが、それでも天城には一抹の不安も感じて欲しくない。

 それは付き人として、何より親友としての、俺の願いだ。


「……じゃあ私、散歩行く」

「おいおい、無理しなくていいんだぞ」

「新が私のこと考えてくれてるのに……わ、私が新のこと考えないの、違うじゃん。それにこれは、新の慰安旅行なわけだし……」


 こういう場合、別に俺のことは気にするなと言うと、大抵天城は意固地になってしまう。

 そしてちょっと雰囲気が悪くなり、なし崩し的に彼女の意見に従うというのがよくあるパターン。


 そうなっては俺も面白くないので、「ありがとう」とここは潔く頭を下げた。


 ……にしてもこいつ、本当に大丈夫か?


 あのストーカーはあり得ないにしても、誰かの視線を感じてるとか?

 いや、無いな。あの件以降かなり気をつけているが、現状妙な気配はしないし、さっき軽く部屋を見て周ったがカメラや盗聴器の類も見つからなかった。


 とすれば……。

 水着で来たから替えの下着忘れて、浴衣の下はノーパンノーブラで落ち着かない、とかだったりして。


 ……ふっ。

 いやいや、あり得ない。


 そんな漫画みたいなこと、普通するか?

 よりにもよって、あの天城が?

 小学生の鼻垂れアホガキじゃないんだぞ?


 確かに天城は見た目のわりに抜けたところはあるが、流石にそこまでじゃない。


 俺の誰よりもカッコいい親友を舐めるなよ。




 ◆




 拝啓、お母様。

 あなたの娘は、ノーパンノーブラで好きな人と一緒に夜道を散歩する変態です。




――――――――――――――――――


 今回はちょっと短めです。

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