第36話 同棲初日
シャワーを浴びて軽く身体のメンテナンスをして、キャミソールにショートパンツと隙ありまくりの衣装にチェンジ。
そして新の帰りを待ち、一緒に荷解きを始めて。
……何もないまま、二時間が経過した。
「これおもーい。新、手伝ってー」
「わかった」
言うまでもなく、重いというのは嘘。
まんまとおびき寄せられた新と共に、段ボールを持ち上げた。
この体勢だと、私の胸元が強調されるわけで……。
ほらほら、どうよ新? ムラッときたんじゃない? あんたがわざわざ用意してたアレ、使い所だよ?
「俺が一人で持つよ。二人だと歩きにくいし」
「……あ、ありがと」
だぁああああ~~~~!!!!
違うだろ!! 違うだろぉ~~!!
私のおっぱい見ろよ!! わざわざ段ボールの上に乗せてやったのが、目に入らなかったのか!?
「ふぅー……流石にちょっと疲れたな。少し休憩するか」
「きゅ、休憩!?」
「ん? どうした?」
「……う、ううん。何でもない」
危なかった。
ずっと頭の中が真っピンクで、休憩と聞いてついにその時が来たのかと思った。
私の部屋からリビングへ移動。
新に冷たい麦茶を出してもらい、ソファに並んで座ってひと息つく。
「晩御飯、どうする? 引っ越し祝いに寿司の出前でもとるか?」
「生ものって気分じゃないかな。出前ならピザがいい」
「だったら、荷解き終わったらコーラとか買いに行かないとな」
「ついでにレンタルショップ行こうよ。ちょーくだらない映画借りよ」
「サメが火星から攻めて来る系?」
「うん、それ系」
「同棲初日の過ごし方じゃないな」
「嫌だった?」
「ううん、最高だと思う」
「だよね」
顔を見合わせて、クスリと笑って。
揃って麦茶に口をつけ、もう一度息をついて。
…………い、いやいや。
和んでどうするよ。
新は完全に私の身体を狙っている。
だから私は彼女として、本当に仕方なく、まったく不本意だけど、断腸の思いで、ちょいとその背中を押してやろうって話だったじゃないか……!!
「……何か暑くない?」
「そうか? じゃあエアコンの温度、もうちょっと下げ――」
「それはダメだよ。地球環境に悪いし」
「環境って、お前そういうの気にするタイプだっけ……?」
「うん。私、意識高い系だから」
「系とか自分で言うなよ」
「とにかく、暑い気がする。新もそのはずだから、そのTシャツ脱いじゃないなよ」
「は、はぁ?」
困惑する新。
しかし私からの無言の圧に負け、「まぁいいけど」とTシャツの裾に手をかけた。
しめしめ! これが罠だとも知らずかかっちゃって、間抜けだなぁ!
ここですかさず、私もキャミソールの裾に手を伸ばす。
お互い上半身裸になっちゃったら、新のブレーキもぶっ壊れるに決まってる。私たちを止めるものは、もう何もない。
ヒャッハー!!
いっくぜぇええええええええええ!!
「汗かいてるから、脱ぐとちょっと寒いな……」
「…………」
汗で濡れた上半身。
光を反射し輝く肉体。綺麗な肌。筋肉の凹凸。
その身体は、前に旅館で一緒にお風呂に入った時よりも格段に仕上がっており、もう何というか尋常じゃないほどにエロくて。
今からこれに抱かれるのかと考えた、その瞬間――。
「く、来栖!? おい来栖、大丈夫か!?」
私の中で何かが爆発し、鼻血を噴いてぶっ倒れた。
◆
俺が帰宅してすぐの話。
「あれ? このカッターって……」
荷解きを始めて、少し経って。
ふと、来栖が当たり前のように俺のカッターを使っているのが目に入った。
使うこと自体はいい。何の問題もない。
でもあれ、どこから持ってきた……?
「……っ」
嫌な予感がして、ふっと自分の部屋に入った。
机の引き出しを開け、カッターがないことを確認。
来栖はここに入っていたのを持って行ったのだろう。
「……じゃあこれ、絶対に見たよな……」
この引き出しには、以前犬飼から持たされたコンドームを入れていた。
こんなのでも貰い物だからと捨てなかった自分を恨む。
「身体目当てとか思われたらどうしよう……」
付き合いたてで、同棲初日。
そんなめでたい日に、彼氏の部屋で避妊具を発見。
……来栖、絶対に引いたよな。
ヤる気満々の身体目当ての糞野郎だって、心底軽蔑したに決まってる……。
これは犬飼のだって説明するか?
いや、そんなのカッコ悪い言い訳にしかならない。
やけに隙の多い服を着ていたが、きっと俺を試しているのだろう。
この格好で何もされなかったら安全だと、そういう試験なのだろう。
来栖は魅力的だし、正直ずっと見ていたいが、今回ばかりはダメだ。
絶対に反応しない。
――折村新は安全な男だと、今一度証明する。
「来栖が実は俺を誘ってる……とか、そんなわけないか。流石に」
バカげた考えが頭を過ぎったが、すぐに掃いて捨てた。
俺の誰よりもカッコいい親友――いや彼女は、性欲というものに苦手意識がある。
コンドームを見て興奮して、あんなあからさまな格好で誘惑するとか、そんな中学生男子並みのアホ極まりないことは絶対にしない。
◆
拝啓、お母様。
あなたの娘は、彼氏に襲われたくてムラムラギンギンで荷解きしてたら、熱中症で鼻血を噴いたどうしようもない変態です。
――――――――――――――――――
次話、第一章完結です。
安定のアホインですが、最後はきっちりヒロインとして締めます。
「面白い」「続きが気になる」という方は、作者&作品フォロー、☆レビューをお願いします。執筆の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます