第31話 義理の息子(※願望)
「王子ちゃん、今日いいねー! 何か輝いてるねー!」
「ありがとうございます」
「本当にすごいよ! どうしたの、何かあった!?」
「いえ、特に」
「またまたー! 過去イチだよこれ! やっぱり王子ちゃんはすごいなー!」
折村くんと遊園地デートへ行った次の日。
天城さんの放つオーラは、過去類を見ないほど輝いていた。
クールでダウナーないつもの雰囲気はそのままに、上機嫌というか熱があるというか、とにかく眩しくて神々しい。これは絶対にファンが爆増すると、あたしの勘がビンビン反応する。
「すごくいいよ、天城さん。昨日は何も言ってくれなかったけど、やっぱり折村くんと何かあったんでしょ?」
撮影が終わり、あたしは彼女に声をかけた。
彼女は口元に笑みを灯して、両の瞳をクールにスッと細める。
「新の気持ちがわかったの」
「折村くんの、気持ち……?」
「そう。あいつ、私のこと好きみたいなんだよね」
「えっ? あ、そうだったの?」
よっしゃぁああああああああああ!!!!
キタキタキターーーーー!!!!
何だよ折村くん、告白したのかよぉー!!
そっか、通りで天城さんの調子がいいはずだ!!
ふぅー……これであたしのドル箱のポテンシャルが、完全開放されたってことか。
あーっ!! のぼっちゃうなーっ!!
ブルジョアへの階段、のぼっちゃうなーっ!!
ひゃっほぉ~~~~~~い!!!!
「まあ、まだ告白とかされたわけじゃないけど。これは間違いないよ」
……何だ、付き合い始めたわけじゃないのか。
いやいや、残念がってどうする!
折村くんからの好意を理解したってだけで、この輝きよう……! 実際に付き合い始めたら、きっと彼女は超新星爆発を起こす!
チェックメイトまで、もうあと半歩。
あたしは焦らず、ジッと見守ってなくちゃ!!
「ところで、今日その折村くんは?」
「新はほら……毎月のアレだよ、アレ」
「あー、アレか。そっか、あの子も大変だなぁ……」
「本当は私がやらなくちゃいけないんだけどね」
天城さんは前髪を軽くいじりつつ、自嘲気味に笑った。
◆
学校終わり。
俺は来栖を仕事場へと送り出し、一人喫茶店へと向かった。
アイスコーヒーを一つ頼み、
毎月のことだが、非常に落ち着かない。
「でも、頑張らないとなー……これも仕事だし……」
内心自分に鞭を打って、丸まっていた背中をピンと正す。
しばらくして、カランコロンと扉の鈴が鳴った。
ふっと視線を向けると、来店したのは一人のスーツ姿の男性。
身長はすらりと高く、ガッチリと引き締まった体型。ヤクザ映画の名優如き凄みを帯びており、タダ者ではないと誰しもひと目でわかる。
実際、あの人は一般人とは程遠い。
――天城
「こんにちは。お久しぶりです」
俺はすぐさま立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
総一郎さんは俺に座るよう合図し、向かい側に腰掛けて「遅れてすまない」とこぼす。
……相変わらずの圧迫感だな。
ただ向かい合って座ってるだけなのに、もう帰りたくなってきた……。
年齢はうちの父さんと同じ。
それなのに歴戦の戦士のような眼光を備えており、天城のクールな部分を煮詰めて凝縮したような雰囲気を纏う。やっぱり大きな家の当主っていうのは違うなと、会うたびに思う。
「娘さんについてですが、今月も特に変わりはありません。元気に過ごしてますし、勉強の方も順調ですよ」
「……そうか」
来栖と総一郎さんは、随分と前から喧嘩中。
特に来栖は絶対に会わないと頑なで、正月などの行事以外では実家に戻らないし、戻ったとしても父親と口を聞かないらしい。
しかし、総一郎さんの方は娘が心配。
なので俺が、定期的に会って来栖の様子を報告している。
「この前の期末試験では――」
この一ヵ月間の出来事を一つ一つ、丁寧に話していく。
総一郎さんは「そうか」「ふむ」などと相槌を打ち、時折注文したコーヒーで唇を濡らす。
何を話したって、いつも無表情。そして無口。こういうところは来栖にそっくりで、流石は親子だなと思う。
ただ来栖と違って、俺はこの人の感情がまったく読めない。
……そもそも、二人の喧嘩の原因って俺だしなぁ。
今更だけど、俺が報告に来てることに怒ってたりするんじゃないか?
たぶん……ってか、絶対嫌われてるよな。
はぁー、嫌だ。本当に帰りたい……。
◆
私――天城総一郎は、新くんのことを疎ましく思っていた。
娘の来栖を、人生経験のつもりで公立の小学校に入れたのが全ての間違いの始まり。
同級生にいじめられ、そこを新くんに助けられ、恋に落ちてしまい……。
結果、私が敷こうとしたレールは全てご破算。
彼のために芸能活動を始め、中学受験を拒否して彼と同じところへ通い、そのまま高校まで一緒。
もう少し将来のことを考えなさい、と口にすれば、新との仲を邪魔するのかと激昂する始末。
この男の存在が、私と娘の関係を破壊した。
だから、疎ましく思っていた。
邪魔だと思っていた。
いなくなればいいのにと、そう思っていたの
「――報告は以上になります。娘さん、勉強も仕事も本当に頑張ってて、尊敬しない日はないくらいです。でも無理はしないよう、今後も俺の方でできる限りのサポートはしていきたいと思います」
そう言って、新くんは軽く頭を下げた。
私は生まれつき顔が怖く、愛想が悪く、そして口下手。
子供の頃のあだ名はヤクザで、小中高と喧嘩もしていないのに番長扱いされた。
だから今も部下からは怖がられているし、何だったら親戚の子供は私の顔を見ただけで号泣するし、それが実はメチャクチャ傷ついていたりする。
……でも新くん、何でもない風に話してくれるんだよなぁ。
まだ若いのに言葉遣いは丁寧で、物腰もやわらかいし……。
いい子だ……!! ちょーいい子だ……!!
しかも成績は学年トップクラスで、腕っぷしも立って、家事までこなしてしまう。その上、見てくれまでいいと来た。
なのに真面目で誠実で、どれだけ内偵しても黒い情報が一切出てこない。
小学生の頃から、来栖一筋。あの子のためなら本当に何でもしてしまう、今時珍しいくらい真っ直ぐな男。
もう何というか、こんなの二人の仲を認めざるを得ないだろ……!!
来栖の目は間違ってなかったって、パパ感服しちゃってるよ……!!
結婚しろ!! 息子になれ!!
一緒にお風呂入って、お義父さんって呼ばれながら背中の流しっことかしたい!!!! 夜の公園でキャッチボールとかメッチャしたい!!!!
「あの、どうしました? 俺の顔に何か?」
「あぁ、いや……」
おっと、危ない。
気合いが入り過ぎて、つい睨みつけてしまった。
……新くんには是非とも娘といい仲になって欲しいが、生憎、この子にその気はないんだよなぁ。もうずっと、うちの娘の片想い……。
来栖って、そんなに魅力ないか?
うちの娘、宇宙一可愛いよな?
……何だってこの男は、来栖と四六時中一緒なのに間違いをおかさないんだ。
考え始めたら、何か腹立ってきたぞ。
やっぱり私、こいつのこと嫌いかもしれない。
「あ、そうだ。これ、奥様に渡してください。作って欲しいと頼まれていたクッキーです」
そう言って、鞄から小綺麗に包装されたクッキーを取り出した。
うちに妻は、随分と前から新くんの手作り菓子がお気に入りだ。甘い物が苦手な私にはよくわからないが、とても美味しいらしい。
……こんなもので、妻までたぶらかそうとしやがって。私なんか、誰かに手作りのものとか貰ったことないのに。
くそ、ムカつく男だな。
「あとこれ。一応、総一郎さんの分も作ってまして……」
「……ん? 私に?」
「随分と前にほうじ茶が好きだとおっしゃっていたので、ほうじ茶を練り込んでみました。甘さ控えめに仕上げたので、お口に合えばいいのですが……」
「…………」
「よろしければ、奥様とどうぞ」
「……そうか。すまないな」
うっひょ〜〜〜〜〜〜!!!!
義理の息子最高かよぉ〜〜〜〜〜〜!!!!
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おかげさまで、☆1500を突破しました。
皆さん、ありがとうございます。
お知らせです。
このまま一日一話投稿ではカクヨムコンの締め切りに間に合わないので、明日と明後日は一日に二話投稿します。
投稿時間は、6:10と18:10の予定。
第一章も残りわずかなので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
「面白い」「続きが気になる」という方は、作者&作品フォロー、☆レビューをお願いします。執筆の励みになります。
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