第2話 ただのイヌじゃねぇか!?

「がぶが〜ぶ〜」


 ロスがご機嫌に亡霊を齧る。


「やはりケーキより美味いのでは!?」


 ルベロが興奮しながら亡霊を味わう。


「逃げんじゃねぇ!!」


 ケルが怒鳴りながら亡霊を追いかけ回す。


 亡霊達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。


「チッ、数が多い!」

「た〜のし〜いね〜ぇ〜」


「今は楽しんでる場合じゃねぇだろ! さっさと片付けろ! 一匹たりとも見逃すな!」

「は〜い。だってさルベロ〜……ルベロ?」


 ルベロは首をがくがくと揺らし、目は半分閉じている。


「おいルベロ! お前どうした!?」

「王は……喜ぶの……では……?」


 ロスが突如ルベロの頭を甘噛みする。


「がぶっ〜」

「っは!? すまん……眠く……なっ……て……」


 ルベロは起きたかと思えばまた頭をぐらつかせる。


「はぁ?! 眠いって今の状況でか!?」


 ケルが亡霊を齧りながらもルベロの頭を起こそうとする。


「オラオラッ、さっさと目ぇ覚せ!!」

「急に……眠気が……目の前に……王が見え……」

「急に眠気っておかしいよね〜さっきのケーキに何か入ってた〜?」


『ハハハ、馬鹿な奴らだ。今更気付きやがった!』

『アイツのルーレットケーキなんざ食うからだ! 俺ぁ死んでもゴメンだぜ!』

『オイオイ、それで死んだ俺へのあてつけかァ?』


 亡霊達が逃げ惑いながらゲラゲラと笑う。

 何か入っていたのは正解のようだ。


「何だとっ! おいロス! 俺たち2人で何とかするぞ!」

「も〜仕方ないなぁ〜」


 ケルとロスで亡霊達を追い回す。

 しかしぐらつくルベロの頭で思うように動けない。


「ルベロめ、後で覚えてろよっ……!」

「ルベロの首重〜い」


「もうあと少しか?」

「何匹か現世に逃げちゃったね〜……」


 ようやく逃げ出した亡霊の数を減らした、とその矢先だ。


 かろうじて繋がっていた門の扉が吹っ飛ばされる。

 それによって更に大量の亡霊の波が押し寄せてきた。


『スクールの奴らを脅かしてやる!』

『次の選挙は誰が当選したのかねぇ』

『何でもいいさ! どのみちシティは荒れてるんだ!』

『『『いざいざ! 我らがコルソシティへ!!』』』


「はああああ?! なんて数してんだよ?!」

「え〜、こっちが本命〜?」


「一気にこの数は食べられないよ〜」

「呑気な事言ってんじゃねぇ! 構えろ!」


 ケルとロスはあまりにも多すぎる亡霊達に押されてのまれる。


「わわっ〜?!」

「っこの!」


 ケルベロスは亡霊達の上に乗り、勢いそのまま流されてしまう。

 亡霊達の向かう先は当然現世へと続く空間の穴だ。


「まずいっ、このままじゃっ! 俺たちもくぐっちまうぞ!?」

「亡霊の数ってこんなに多かった〜?」


 亡霊が門から出る事は無い。だからケル達には中にどの程度の亡霊がいるかは把握していなかった。


「ケル〜! これちょっと無理〜」

「しゃあねぇ! 邪魔だテメェら!? チッ、現世でルベロを叩き起こして逃げた奴らを全部かっくらうぞ!」

「は〜いっ、うわ〜〜!?」

「お前らっ、覚えてろっ!?」


 亡霊達の上で、ケル達は眩い光に飲み込まれ、現世へと続く穴に入っていったのだった。











 眩い光が収まってしばらく、ケルは目を覚まし、横たわっていた体を起こす。


(妙に体が軽りぃな……)


 ここは現世に間違いない。なんせ道路には車が走り、空には飛行機が飛んでいる。

 ビルのディスプレイにはシティで起こった事件の速報が流れている。

 これら全てが冥府には無いものだ。


 逃げ出した亡霊をどうにかする必要がある。その為にはルベロとロスの協力は必要不可欠だ。


 まずは寝ぼけているであろうルベロを起こさないと。


「ウォン! ウォ……ン?(おいルベロ! さっさと起き……うん?)」


 ケルは自身の声がおかしい事に気づく。


(おいおいオイオイ、ただのイヌみてぇな声が出ちまってんだが……)


 そしてルベロとロスの声がしない事に気づき、ケルはキョロキョロとあたりを見渡す。


(……居ねぇ)


 胴体はひとつだ。

 首もひとつだけ。

 今まで居たはずの兄弟は居なかった。


 尻尾を垂れ下げながら、ケルは再度体を確認する。

 体の大きさは以前よりもかなり小さい。

 そして首もひとつ。

 黒い毛並みで四足歩行の生物。


 これでは、これではまるで——


「わおん!?(ただのイヌじゃねぇか!?)」

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