第6話 ここって亡霊の家じゃねぇの!?

「ここが私のお家なの!」

「………………ウォ……ウォン……?(……こ……ここが……か?)」


 立派な一軒家だ。

 洋風の庭付きでそこそこでかい。

 シティ内を走り回ったケルとしては、そこいらに建っている家より遥かに立派だと感じている。


 彼女は良い家に住んでいる。

 家の中で亡霊がどんちゃん騒ぎをしていなければの話だが。


(ここって亡霊の家じゃねぇの!?)


 そもそも幼い少女がひとり住むには広すぎる。

 それにあんなにも亡霊の数が住み着いている家は明らかに生者の住める環境ではない。


 亡霊が窓からこちらに向けて手を振っている。


(煽ってんのか!? オォン?!)


 グルグルと牙を剥くケルの隣で、少女が自宅の門を開き、玄関へと向かう。


「寝るところ準備するね! あとはお腹空いてない? えへへ」

「ヴォヴォン!(待て待て!)」

「きゃっ」


 少女よりも先にケルは家へと走って向かう。


「ケルちゃん!?」

「ヴォンヴォン!?(何で家の窓を開いてんだよ!?)」


 ケルは空いていた家の窓から飛び込んだ。


「あれ? また勝手に窓開いちゃってる……?」

「ヴォン!!(出て来いクソ亡霊共!!)」


 突如飛び込んできたケルに亡霊たちは騒然とする。


『イヌ!?』

『あたしたちの事、見えてるんじゃない!?』

『今ちょうどコンロの火着けれそうな所なのに!』


 キッチンで食べ物を漁り、イタズラする亡霊をケルは追いかける。


「ケルちゃん! 包丁とか危ないから気をつけてー!」


 ひとりでに跳ね飛ぶ包丁を避けながら亡霊を齧る。


 戸棚から突然飛び出すシリアルとピーナツバターを掻い潜り、亡霊を食いちぎる。


 水が出続けているシンクのシャワーヘッドを蹴り飛ばし、コンロから噴き出す炎を消火する。


(次は……あっちだなァ!?)


 ケルは荒れた後のキッチンから飛び出し別の部屋へ走る。


『どっから来たこの化け物!?』

『前はこの辺に棚あったよねー、え? イヌ!?』

『ゆーらゆらー』


 リビングでのどんちゃん騒ぎをする亡霊をケルは踏みつけ噛みまくる。


「待ってケルちゃーん! リビングの壁はガリガリしないでねー!」


 ギシギシ揺れて剥がれる床板を踏みつけ、亡霊を宙で噛みちぎる。


 べりべりと剥がれて巻きつきにくる壁紙をするりと躱し、亡霊を足で抑えて食い切る。


 ゆらゆら揺れるシャンデリアへ飛び跳ね、ぶら下がる亡霊をすれ違いざまに齧る。


(んで、あっちだなァ!?)


 ケルは落ちたシャンデリアを飛んで躱し、2階の階段を駆け上る。


『ランプはあったけぇなぁ……あの子イヌ飼ってたっけ?!』

『ベッドの中で待ってたら来るかなーって、別のが来た!?』

『カーテンの裏は脅かす定番……んん?!』


 寝室でくつろぐ亡霊をケルは噛みつき飲み込む。


「待ってよーケールちゃーん! ベッドは破いちゃ駄目だからねー!」


 飛んでくるランプを蹴飛ばし、怯える亡霊を吠えて噛む。


 ベッドのマットレスがひとりでに割れて挟みに来るのをいなし、油断する亡霊を横から襲う。


 揺れるカーテンに飛びつき、悲鳴を上げる亡霊を一飲みにする。


(クソッどんだけ住み着いてんだ、この家!!)


 ケルは家の中の部屋という部屋を何度も走り回る。


 後ろから来ている筈の少女はケルに全く追いつかない。


 亡霊を齧って暴れ回るケルは家の中をあらかた走り回り、散らかり切った家の中のリビングにて少女を待つ。


(亡霊は居なくなったが……)


 家の中の惨状を罰が悪そうに見るケル。

 そんな中、ぷりぷりと可愛らしく怒る少女がリビングにやってきた。

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