第7話 うちへようこそ、ケル!
少女が頬を膨らませながらリビングまでやってくる。
「もー、こんなに散らかして!」
「グル……(悪い……)」
ケルは耳をぺたりと寝かせた。
「もう……おうちに物が少なくて良かったぁ……ケル、怪我は無い?」
「ウォン(無い)」
ケルの目の前にしゃがみ込んだ少女はケルを撫で回す。
ケルは撫で回されている間も変わらず、されるがままだ。
怪我の確認にしてはやけに長く撫で回された後、少女は満足げに頷き、ケルの目の前にびしりと指を突きつけた。
「うん、元気そうだね。でも片付けはケルにもして貰うよ!」
「……グル(……分かった)」
ケルが弱ったように頷くのを見て、元気づけるように少女は笑みを浮かべた。
「これからお家で一緒に住むからね! 改めてうちへようこそ、ケル!」
まずはお片付けしようね、と少女はケルの頭を撫でる。
「ウォン(任せろ)」
最初はリビングから手をつけていく。
セレンが倒れた本棚を立てて起こし、ひとりと一匹が本を集めて並べている。
ふと、ケルが散らばった本を集めている最中、サイズ違いの本を見つける。
見つけた一冊の本は少し離れている場所に落ちていた。
ケルは落ちた本の元へ駆け寄って拾おうとする。
(教科書か……何か書いてあるな。……"セレン"?)
落ちていた教科書の後ろには名前を記載する欄があった。
そこには綺麗な字で"セレン"と書かれている。
ケルが落ちた教科書を咥えると、少女がタイミング良く近づく。
「ケル、ありがとう! ……あれ? 私の探してた教科書、こんな所にあったんだ」
彼女は目を丸くして喜ぶ。
ずっと探していたのだという。
「スクールではこれでお勉強するんだよ」
少女は教科書をぱらぱらとめくってケルに見せてくる。
ケルは目の前でめくられる教科書に向かって顔を突っ込ませて邪魔する。
「ケル、どうしたの?」
「ウォンウォン?(お前の名前か?)」
前脚を駆使し、ケルは教科書をたしたしと何度か叩く。
「もしかしてこの文字の事?」
「ウォン(おう)」
ケルはこくりと頷く。
「これはね、この私の教科書は私のものですよって分かるように名前を書いているの。ほら、これで"セレン"って読むんだよ……パパとママがくれた名前なの……」
「ウォン……オン(セレン……か)」
少女は、セレンは目を伏せて教科書に書かれた自身の名前を指でなぞる。
「……あ、そうだ。この教科書、忘れないうちにスクールバックに仕舞ってくるね! すぐに戻るから! また散らかしちゃ駄目だよ!」
「ウォ、ウォン(あ、あぁ分かった)」
(何だ……?)
ケルはセレンの暗い顔に困惑しつつも、ただ見送る。
(いや、そうか……親は居ねぇってか……)
ケルはしばしの間、瞼を閉じた後に散らばった本拾いを再開する。
ケルは本を咥え、前脚を器用に使い、棚に本を差し込んで立てていく。
(セレン……遅ぇな……)
本棚から散らばった本は全てケルによって片付けられたが、まだセレンは戻ってこない。
ケルはボロボロの壁紙を引っ張り、千切っては壁紙にとどめを刺したりをする。
(どの道、こんなボロボロじゃあ使えねぇだろう……?)
ケルはセレンの匂いを辿り、部屋を出る。
匂いの先は寝室だった。
寝室にはセレンが居た。
「ケルちゃん!? 今ね、ケルちゃんが寝る時の毛布を探してたんだー! ほら!」
じゃーん、とセレンは毛布を広げる。
セレンはケルに巻き付けようと、ふわりと上から毛布を被せる。
ケルはその毛布へと齧りついて上に放り投げる。
「わ、ケルちゃん?!」
そして落ちてきた毛布をキャッチし、くるりと毛布を巻く。
セレンも一緒にまとめて。
「……ウォン(……寒いし疲れただろ? 寝るぞ)」
「……ケルはあったかいね」
少女は小さな呟きの後、ケルをぎゅと抱き締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます