第8話 おかえりとただいまの関係
ケルとセレンが毛布で暖を取ってしばらくして。
ケルは瞼を徐々に下ろしていく少女を見守った後、ケル自身も眠りについたのだった。
そして割れた窓から日差しが差し込む時間帯となった。
少女がケルの真横で寝返りが大きくなってくる。
(そろそろ起きる時間か)
「ぅ……ん……」
「ウォン(起きたか)」
「ふゎー……おはよう、ケル……あっ、まずい。寝おちしちゃった!」
「ウォンウォン(おはようセレン)」
彼女は伸びをして目を擦った後、床に落ちて割れた時計を確認する。
隣にいたケルもつられて覗き込む。
(動いてはいる……時間は大体合ってそうだな)
時計は一見壊れてはいたが、時間は正確に刻んでいるようだ。
「もうこんな時間なの!? ごめんねケルちゃん! 今日はスクールだから私、行かなきゃ!」
セレンはバタバタと慌ただしく動き回り、スクールバックに教科書を詰め込んでいく。
「キッチンに確かドッグフードがあったはずだよ! うちにあるものは食べても大丈夫だから!」
「ウォンウォン(俺ァ亡霊を食ってりゃ十分だ)」
(まだ隠れてウロチョロしてやがるしな)
ケルは家の中にまだ隠れている亡霊を睨みつける。
「夕方には帰ってくるから! 明日はお休みだから一緒に食べ物買いに行こうね!」
「ウォンウォン(俺に気にせず行ってこい)」
セレンは不安そうな表情で家を飛び出していった。
(俺は散らかしちまったモンくらいは片付けて……逃げ出した亡霊を食うか)
そしてその日の夕方。
セレンは走って帰宅していた。
出かける時よりも不安げな表情で少しばかり焦りを滲ませている。
「ケルちゃーん!」
セレンは急いで開いた玄関から黒いイヌを探す。
家の中は荒れていた。
「ケルちゃんどこー?」
誰の返事も返ってこない。
物音ひとつしない家だ。
「……ケルちゃん……出ていっちゃったかな……」
ワンピースの裾を握り俯くセレン。
そんな彼女の後ろからバツの悪そうな鳴き声がひとつ。
「……——ウォン(……居るぜ)」
「!? ケルちゃん!?」
セレンの後ろでケルが白いウサギのぬいぐるみを咥えている。
「ウォン、ウォンウォン……(悪ぃ、家の中のモンいくつか盗られちまった……)」
「これ……私のぬいぐるみ?」
「……ウォ? ウォン?(……何してんだ? ウチに入らねぇのか?)」
ケルは咥えていたウサギのぬいぐるみをセレンに渡し、立ち止まったままのセレンに玄関を鼻で示した。
「え、えへへ。お出かけしてたんだね。おかえりケルちゃん」
「……ウォン(……ただいま)」
セレンは不安だった顔から満面の笑みを浮かべる。
少女の笑みに対してケルは少し照れくさそうであった。
「あれ、お家の中が出かけた時より散らかってる……?」
「グル、ル……!(一度は片付けたんだ……!)」
淡い期待を込めてケルは必死にジェスチャーで状況説明をしてみた。
(俺は片付けていた。コソコソ来やがったコソ泥亡霊が何匹もいた。で、とっちめてたらこうなった。悪ぃのは亡霊だ)
「危ないから暴れちゃ駄目だって言ったでしょ、もう!」
「ウォンウォン……!(俺も暴れてはいたが亡霊のせいなんだ……!)」
「運動はお家の中じゃなくて外、だよ!」
(ぐぐぐ……伝わらねぇ……!)
「それじゃ、明日はお片付けと買い物に行こうね!」
「……ウォン(……おぅ)」
(これ以上、逃げ出した亡霊に現世で好き勝手させてたまるか……!)
ケルは決意を固める。
逃げ出した亡霊たちは一刻も早く喰らい尽くしてやるのだと。
(……その前に散らかしちまったモンは片付けねぇとな)
セレンは明日はどれこれを買いに行くのだのと指を立ててリストアップしている。
その表情はとても嬉しそうに見えた。
ケルはその様子を無意識にただ見守っていた。
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