第3話 ルベロの行方
ケルはその場をぐるぐると回る。
現世にやってきたら姿が変わっていた。
驚きと困惑のまま自身の姿を何度も何度も見返す。
(どうなってやがる!?)
体がひとつ、首みっつのケルベロスでは無い。
ただの黒い毛並みのイヌだ。
(だが、それよりもアイツらは!?)
だがしかし一番の大問題がある。
それはいつも一緒の兄弟がいない事だ。
(落ち着け俺……俺がこんな状態になってるってこたぁ……アイツらもか……?)
ルベロとロスも、ケルと同じようにただのイヌになっているのではなかろうか。
「……ウォン(……まずはルベロとロスを探さねぇとな)」
(ロスは……アイツなら何とかしてるだろ。まずはルベロだ)
(アイツらの匂いならすぐに分かるんだ。それと……ルベロはあのケーキの匂いを辿ればすぐに見つかるだろ)
ケルは辺りの匂いをくんくんと嗅ぎまわる。
そうして謎のケーキの匂いを辿り、シティ内を捜索し始めた。
ケルはルベロの探索中、道行く人々に声をかけられ、あるいは撫でられ、あるいは食い物を差し出され、それでも粘り強く匂いを辿る。
そしてようやくルベロの匂いが強い場所へと辿り着いた。
(もう近くに居るな。案外時間が掛かっちまった)
ケルは匂いを嗅いでいた地面から頭を上げて周囲を見渡す。
するとケーキ屋の前にルベロがいた。
「ウォン!(ルベロ!)」
ルベロは背筋をピンと伸ばし、周囲を警戒していた。
(何してんだあいつ?)
ルベロはケルの声にすぐ気づく。
「ワン! ワワン?(ケルか! どうしたんだ?)」
「ウォンウォン! ウォウォン!(どうしたもこうしたもねぇよ! さっさと逃げ出した亡霊をとっちめにいくぞ!)」
「ワン(おれは忙しいんだ。亡霊はケルが何とかしてくれ)」
「ウォ!? ウォン!(は!? 何言ってやがる!)」
言い合いするケルとルベロ。
するとケーキ屋の店内から人の足音がする。その足音はケルたちの居る扉までやって来ていた。
ケルは咄嗟にその場を離れ、店の曲がり角で隠れて様子を伺った。
ルベロはその場を動く気配がない。
(ルベロ!? 何で逃げねぇ!?)
ちりりん。
扉のベルが鳴り響き、出てきたのは1人の生きた人間だ。
「ルベロ、ジャーキー買ってきたが食うか?」
「!? ワンワンワン!!(!? 食う食う食う!!)」
「ウォ……(え……)」
ルベロは尻尾をぶんぶんと振り回し、店内から出てきた人間の元へと走り寄る。
(……は、はあああああああああ??!!)
遠くからではあったが、店のガラス越しからでもバッチリ見える。
ルベロはジャーキーを興奮しながら食い散らかしていた。
間違いない。
これは餌付けだ。
(ルベロの奴、ジャーキーに落ちちまいやがった……)
そして間違いなく、ルベロが落ちたのはジャーキーだけでは無い。
ルベロの口からは謎のケーキ以外にも甘い香りが漂っていた。
ルベロに餌付けしている人間。
しゃがんでジャーキーを取り出していたのはスキンヘッドの男だ。その白い服装からして、このケーキ屋の店員だろう。
この店員がルベロを餌付けしたに違いない。
「おお、食え食え」
穏やかで優しい笑みを浮かべながらルベロの様子を眺める人間。
しかし白い制服の上からでも分かる。
そのはち切れんばかりの筋肉隆々な全身はケーキを作るというよりも寧ろ戦場で活躍する兵士のようだ。
人間からルベロを取り戻すには困難を極めるだろう。
(……こうなりゃロスと俺だけで何とかするしかねぇ)
こうなったら仕方ないとケルは気を取り直してロスの匂いを辿ってまたシティに繰り出した。
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