第4話 ロスの行方

(ほんっと何だってんだ、ルベロの奴め……)


 ケルはロスを探してシティ内の匂いを嗅ぎ回り、広々とした住宅街にたどり着く。


 静かな公園。

 静かな住宅街。

 道路に道ゆく人は少ない。


 生きている人間は、であるが。


『この恨み……はらさでおくべきかっグワー!?』

「グルッ(不味い)」


 ケルはたまたまその辺に居た亡霊を齧ってもぐもぐと飲み込む。


 まだ外は明るいにも関わらず、ふらふら彷徨う亡霊をあちらこちらに存在していた。


(チッ、真昼間にうろつくんじゃねぇ)


 苛立ちを晴らすかの如く、冥府から逃げ出した亡霊もそうで無さそうな何かもまとめて齧り散らしてやけ食いをする。


(にしても広い場所だ)


 家ひとつひとつが大きく、道幅が非常に広い場所だ。



 この場所に辿り着くまでに幾つも困難があった。


 ケルを見た道行く人が保護しなきゃと警察を呼び、あるいは散歩中のイヌがケルを見て逃げ出し、あるいは謎の集団がケルを攫おうと追いかけてきても、ケルは粘り強くロスを探し、亡霊を追いかけ回す。


(警察がまだうろついてて助かったぜ)


 ケルをしつこく追いかけ回していた謎の集団は警察を見た瞬間にどこかに行ってしまったのだ。


 ようやくゆっくり探せると一安心すると、近くの豪邸から聞き覚えのある声が聞こえた。


「——……」

「わんわ〜ん! (はいは〜い)」

「ウォン……?(この声は……?)」


 ケルは耳をピンと立ち上げて声の方向を探る。


 音の発生源を辿って駆け寄った先は一軒の豪邸の庭からだ。


「わん〜!(キャッチ〜!)」


 フェンス越しに見える広すぎる庭でロスがジャンプして何かを咥えていた。


「ウォ……ウォン……(ロス……何してやがる……)」

「わおん? わんわ〜ん(ケル? 少し前ぶり〜元気〜?)」


 ロスはフリスビーを咥えながら、尻尾をぶんぶん振り回している。


 ケルはロスに駆け寄り、フェンスにガシャンと飛びかかる。


(おー、元気? ……じゃねーよ!?!?)


(何! やってんだ! そんなとこで!?)

(何やってるか〜って? 取って来〜いに決まってるよ〜)

(は?? 取って来い??)


 そんな時だ。

 豪邸の庭から人間の若い男性の声が遠くから聞こえてくる。


「ロスー……! 悪い……! 飛ばしすぎたかー……!?」

「わお〜ん!(ちゃんと取れたよ〜!)」

(ロス!?)


 ガサガサと庭の木から出てきたのは1人の青年だ。


「良かった。もう、居なくなったと思ったよ。このこの〜!!」

「わんわん〜!!(もっと撫でて〜!!)」


(撫で、て……って? ロ、ロス??)


 人間はロスからフリスビーを受け取った後、ロスの頭をわしわしと撫でる。


「よく取れたね。えらいなぁロスは」

「わおん〜(でしょ〜)」

(……)


 芝生にごろりと寝転んだロス。

 ロスの腹が無防備に出される。

 それを人間がわしゃわしゃと両手で豪快に撫で回していた。


(……ありゃあ駄目だ。完全に頬が緩み切ってやがるな……)


 ケルは庭の木の影から隠れて人間とロスの様子をただ眺める。


(……楽しそうに遊びやがって)


 人間とロスの笑い声を背に、ケルはその場を後にした。











 ケルは足を踏み鳴らし、シティを歩く。


(ルベロもロスも何なんだ!)


 ルベロは餌付けされた。

 ロスは人間と遊んでサボっている。


(俺らは冥府の門番だろうが!)


 ルベロもロスも冥府から多くの亡霊が逃げ出した事を知ってる、筈なのであるが。


(亡霊が逃げりゃ捕まえ、喰らう! それが俺たちだ! そうだろう?!)


 ルベロもロスも亡霊の対処はすっかり頭に無いようだ。


(なのにあいつらときたら……!)


 ケルベロスの役割は冥府の王から直々に任されたものなのだ。


(……ああ、いいさいいさ。それなら……俺ひとりでやってやらぁ!)


 ケルは日が暮れつつあるコルソシティを駆け回っていった。





 日が暮れれば生者は眠りにつく。

 夜は亡霊達の時間だ。

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