第18話 計画その二

 ケルはケーキ屋にこっそりと来ていた。

 しかし今のケルはイヌだ。

 ケーキ屋の中に入っているわけでは無い。


 ケルは外で少し話をしていた。

 その相手はケルそっくりの相手、ルベロである。


「ウォン(ってな訳で昨日はロスん所に行っててな)」

「ワン(亡霊が生き返るのはあり得ないのでは?)」

「ウォン(あぁ、あり得ねぇ。あんのクソ亡霊共め、何か間違えてやがんだ)」


 不機嫌そうに鼻を鳴らすケル。


「ウォン(にしたって……セレンの家ん中見たヴァスは何かしらの質問すると思ったんだがなぁ)」

「ワン(ケルの話を聞く限り、既にセレン家の状態を知っていたのでは?)」

「ウォン(そいつも微妙なんだよなぁ)」


(家を見渡すヴァシリアスは驚いた後、感情を押し殺したような表情だった)


(……あそこまで荒れているのはヴァシリアスにとって想定外だったって事じゃないか?)


「ワン(ゾイの家に亡霊は全く居ないので助言のしようが無いのだ)」

「ウォン(ロスのとこも亡霊はほぼ居ないってよ……セレンの家だけに群がってやがる)」


(どこのどいつかぁ知らんが、とんでもねぇ噂を流しやがって)


「ワン(ケル)」

「ウォ? ウォン?(うん? どうしたルベロ?)」

「ワン(ゾイなら異変に気づくのでは?)」


(——それだ)













 セレンがスクールから帰ってくるのを玄関でそわそわとケルは待ち構える。


「ケルちゃんただいまー!」

「ウォン(おかえりセレン)」


 ケルはセレンに駆け寄る。セレンはいつものように笑顔でケルを抱きしめて撫でる。

 撫でられながらもケルは咥えたものをセレン見せた。


「何を持ってるの?」

「ウォン(セレンは甘いモノ好きか?)」


 ケルが咥えた一枚の紙を受け取るセレン。


「ケーキ屋さんのチラシ? ……あ、ゾイさんだ!」


 今日、ケーキ屋からチラシを一枚貰って来ていたのだ。チラシにはケーキの写真がいくつも載せられており、裏面の端に小さくゾイの顔写真も載っていた。


「どれも美味しそうだね!」


(計画その二。セレンがケーキ屋に通って店員ゾイと仲良くなる。そんで仲良くなった二人が家の状態やら何やらを話題に上げるってな作戦だ)


(仲良くなるだけならケーキ屋じゃあなくてドッグランでも良かったっちゃあそうだが……)


 ケルはヴァスがセレンに質問した時のことを思い出した。

 満足度のアンケートだという質問にセレンは動揺していたのだ。


(でもあの時、セレンは何か言いそうだった。だが、セレンの言葉をヴァスは聞くことは無かった。……優しさ……なんだろうが、亡霊はどんどん過激になってんだ。これ以上、亡霊どもに好き勝手させられねぇ! だからゾイとセレンが二人で話す場所をつくって噂の元を探る……!)


「まだお店は開いてるね。ケルちゃん! 今からルベロちゃんに会いに行く?」

「ウォン! ウォン!(よしきた! 行こうぜ!)」











 筋肉ムキムキの店員が店の扉を開く。

 カランと鳴る扉からセレンが期待いっぱいの顔を覗かせる。


「いらっしゃいませ」

「こんにちはゾイさん!」


 ケルはセレンが店内に入っていくのをガラス越しに見つめる。

 ケルはルベロと外で待機だ。


(よし、会話は聞こえる)


 ケルはルベロと戯れて遊んでいるフリをしながら店内の様子を伺った。


「わぁ! いっぱいキラキラしてる!」

「おすすめはいちごのショートケーキとフルーツタルトです」

「……どうしようかなぁ」


 セレンはケーキのショーケースを眺めながらも、後ろを振り返ってケルを見る。

 ゾイはセレンの視線に気付き、優しく微笑んだ。


「好きに選んでください。ケルとルベロには後で差し入れをするので」

「い、良いんですか……?」

「もう閉店時間も近いですから」

「えっと、じゃあ……いちごのショートケーキをひとつください!」


 ゾイがショーケースからケーキを取り出す時、ケルはセレンの言葉を聞き逃さなかった。


 "いちごのショートケーキってどんなお味なんだろう?"


 セレンはずっとショーケースの中を目を輝かせて見つめていた。

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