第23話 盗み聞き

「ウォン?(落ち着いたか?)」

「……ケルちゃん」


 ハンカチでずっと顔を擦っていたセレンだったが、ようやく落ち着いた。


 そしてセレンらハンカチで顔を隠したまま、ぽつりと呟き始めた。


「私の家族ね……去年、事故にあったの」

「ウォ(事故、か)」

「シティで……お買い物に行く途中の事だったの。出掛けてたのはね、お父さんお母さんアルゴス。……私以外のみんな」


 セレンは去年のことを思い出す。


「私はお家でお留守番だったの。ひとりでね」


 セレンは高熱で頬を赤くしていた。玄関の扉から両親たちがバッグを車に乗せ、外出の準備をしていた。

 セレンの母親が熱でぼーっとしているセレンの額に手を当てる。


 かなり熱が出たわね、何か買ってきて欲しいものはある?


 セレンの母親はそう言った。


「私はお熱が出ちゃったから。キャンディを買ってきてって頼んでいたの」


 キャンディが欲しいの。

 スクールで友だちがくれたレモンのキャンディが欲しい。


 セレンは両親に小さな声で頼み事をした。


 両親とアルゴスが車に乗り込み、外出していくのをセレンはしばらく見守った。


 セレンはひとりベッドに潜り熱にうなされながら家族の帰りを待っていた。


 度々眠っていたのでセレンは家族の帰りが遅いとは思っていなかった。


「みんなをずっと待っていてね、でもね夜になって警察の人がお家にやってきてね」


 セレンが寝ていた時、玄関の戸を叩いてやって来ていたのは警察だった。


「"ようやく身元が分かった"って言っていたのを、私聞いたの」


 わずかに残った所持品に住所が書かれていたのだとやって来た彼らは言った。


「車はぺしゃんこで……ほとんど何も分からなかったって……そう言ってたの……!」


 セレンにはそれ以降の事が記憶に残っていなかった。

 セレンはずっと熱で頭をぼーっとさせていた。


「セレンのおばさんが私にね、セレンの家族はみんな天国に言っちゃったんだ……って……」


 セレンの目元から大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……会いたい」


 泣きじゃくるセレンの頬をケルは舐める。

 セレンはケルの体を撫でた。


「私ね、みんなに会いたいって……そう思って探したの」

「ウォン?(探した?)」


「……天国の家族に会いに行く方法」

「ウォ……!?(なっ……!?)」


「最初はね。スクールの図書室にあった降霊術っていうのを試してみたの……全然ダメだった」


「もちろん違う本も探したよ。シティの図書館でね。……天国の家族を呼び戻す方法を手当たり次第にやってみたの」


「変な木の人形とか、お札とか、小さな玉がいっぱいついたブレスレットとかね、色んな物を探して使ってみたの」


 効果が無さそうかもって物も全部使って試した、とセレンは呟く。


「色々試してたら家具が段々変な事になって来たの」


 誰かがソファに座って居るのを一瞬見えたり。

 時計の秒針が常にとんでもない速さで回転し続けていたりしていたという。


「だから変になっちゃった家具を売って……また効果のありそうな物を揃えたの」


「今度こそ会えるかもって……でも何度やってもダメで」


「だからね……私が会いにいく方法を探したの」


「ラトゥリアオークションっていう所でいっぱい揃えてね。お家は……変な事ばっかりで集中出来なかったから……人けのない場所を探して持って来たもの全部試したの——そうしたら行けたの」

「ウォン……(行けたって……)」

「天国。……だったのかなぁ?」


 セレンは気づかない。

 家の外、窓の下でこっそり聞き耳を立てて居る亡霊がいる事を。

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