第11話 ドッグランで遭遇(ルベロ)

 ケルとセレンはドッグランへと来ていた。

 その場所は非常に広く、小売店が100個入れそうなくらいだ。


 けれども、これくらいであればケルが端から端まで走って10秒とかからない。


 入り口には様々な張り紙やチラシが積まれていた。


「イベントやってるの? あっ、昨日までかぁ……イベント中ならもっとワンちゃんいっぱい来てたのかなぁ?」

「ウォンウォン(広々使えていいじゃねぇか)」


 セレンは少し残念そうだったものの、ケルの様子を見て気を取り直したようだ。


「ケルちゃん! いっぱい楽しもうね!」

「ウォン(トレーニングだな)」


(変なモンは見当たらねぇが一通り確認すっか)


 ケルはその場を飛び出し、広々とした芝生を真っ直ぐ、あるいはジグザグに走り抜ける。


 その際に地面の中に潜む亡霊を地上に蹴飛ばし喰らいつく。


『何故バレたぁっ、ウァー!?』


 遊具の暗がりに隠れる亡霊を蹴り飛ばす。


『ご褒美ですぅっ、ウィーッ!』


 植えられた木を駆け上がり、木の葉に隠れる亡霊を地上へ叩き落とした。


『テッペンはオレのも、譲りマスゥー!?』


 ケルは一通り駆け巡った後、セレンの元へと戻ってくる。


(亡霊がドッグランで何してんだ??)


「ケルちゃん凄い!」

「……ウォン(……居ると思わなかったんだ)」


(セレンに亡霊が見えてなくて助かった)


「あ、ほら見てケルちゃん! ケルちゃんと同じ色のワンちゃんだよ!」

「ウォン……ウォ?(黒い毛並みのイヌなんてどこにも……うん?)」


 ゴロンと芝生に黒く丸々としたクッションが落ちていた。


 いや、動いているから生き物だ。


「ほらルベロ、少しは運動しような」

「ワンワン?(芝生が気持ち良すぎでは?)」


 黒いクッションの近くには筋肉モリモリのゴツい男性がしゃがんでいる。


「ウォン……?(ルベロ……?)」


(いや待て、本当にあの黒いのはルベロなのか?)


 丸くて黒い毛並みの生命体だ。

 ほんの数日前見た時とは比べ物にならないくらいの驚きの丸さだ。


 しかし、だ。

 匂いは間違いなくルベロだ。

 声は間違いなくルベロだ。


 近くにいる筋肉の化身もルベロの側にいた人間だ。

 そもそも人間が黒い生命体に向かってルベロと呼んでいたのだった。


 ケルは半信半疑でゆっくりと近づく。


「グル……ル?(ルベロ……か?)」

「ルベロお友達が来てくれたぞ。ほら立って」

「ワ……ワン!(友だ……ケルじゃないか!)」

「ウォンウォン……?(ルベロ、何だそのたるみきった体は……?)」


(ルベロであってんのかよ!?)


 ルベロは動揺しながらゴロゴロ転がっている。

 そして諦めたように体を脱力させた。


「グ、グル?(おい、起き上がれないのか?)」

「ワン……ワン……(少し時間がかかるだけ……で……)」


 ケルはルベロに顔を近づけて、話を始める。


(こ、この体には深い訳があるのだ)

(深い訳っても……まぁ、ある程度は予想が出来るが……聞いてやるよ。何だ?)

(太った)

(だろうなァ!?)


(待ってくれ、太ったのにも理由があるのだ)

(あん?)

(ゾイのケーキがこれまた美味くゲフゥ)

(そうだろうなァ!?!?)


 目の前でゲップされた腹いせに丸々とした腹を前脚で叩く。


(どんだけ食ってやがんだよ!)


「ウォン! ウォン!!(運動しろ! ケーキじゃなくて亡霊を喰らえ!!)」

「ワン! ワ……ワン!?(亡霊は美味くない! 運動は……はっ、動きに来たのでは!?)」


 ケーキが良いとゴロゴロ転がり駄々こねるルベロ。

 さっさと立てとルベロの腹をベシベシ叩くケル。


 そんな二匹の側には飼い主が二人。


「ケルちゃん!? うちのケルちゃんがごめんなさい!」

「大丈夫ですよ。恐らくじゃれてるだけで、ルベロには良い運動です」


 慌てるセレンに穏やかに返答するゾイ。


「ほら仲は良さそうだ。初めて会ったとは思えないな……」

「ほんとだ……良かった」

「ゾイです。良かったらこれからもルベロと仲良くしてやって下さい」

「私はセレンです! こちらこそケルちゃんと仲良くして下さい!」


 ゾイがセレンと好きなケーキについて雑談をしている最中もずっとケルとルベロはじゃれついていた。


「にしても本当に兄弟みたいだ」

「同じワンちゃんですもんね! あ、あっちにも黒いワンちゃん!」


 ケルやルベロ同様に黒いイヌが飼い主の男性と共にこのドッグランにやって来ていたのだった。

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